[こころ] 嫉妬、

お盆は先祖の霊を迎える行事であり、その時期に人は生と死について考えることも多いと思う。

夏休みに誰もいない冷房の効いたオフィスに夜通し、つめていたせいもあり、世間で話題になっているインド並みの猛暑をあまり実感する機会がなかった。8月に入り、ほとんど休みなく働いているが、担当しているプロジェクトが、工程混乱を起こし、納期直前に、目標の半分にも達していなかった事が判明した。そういった理由である。

私はSEとして5月の末に途中から参画しているが、最初から参加しているプロジェクトマネージャの疲労困憊気味は見るに耐えかねないものだった。明らかにやつれ、食も進まないので、よく吐き気を催すようだが、部屋中に聞こえるようなうめき声にしかならなかった。冗談とも取れない口調で、時々「もうこのビルから飛び降りたい。」と口癖のよう言う事が増えた。客先の担当者が短気な人であるせいもあり、客先との電話を切るたびに憔悴し、生気をうしなった顔でうつむいていた。
どうすべきかを話し合っても、まるで前に進まず、彼の憔悴と客先の焦りが朝令暮改な指示を生み、プロジェクトの混乱に余計に拍車を掛けていた。と思う。

結果的に担当者の努力もむなしく、盆前にこのプロジェクトは部長預かりとなり、部門全体でリカバリに入ったのだが、それにつれ、私が工程の管理や作業指示するようになってから、彼が本当に恐れているのが、果たして客先の担当者や、責任問題なのか、そう思うこともしばしあった。

お盆の夜だった。仕切りなおしによって、すでに指揮権を失った彼は、部長の指示で黙々と作業をこなすスタッフを横目に見ながら、ビルの窓辺により、窓を開けて夜の中に視線を落としていた。だれも彼を見ない。その光景に気がついたのは部屋でも私1人のようだった。しばらく窓を開けたままの彼を横目に見ながら、すこし緊張が走った。窓を閉めて、落ち込むように自分のいすに座った彼を見て、私は再び、自分の仕事に戻った。多分、このプロジェクトの一つの山はこのお盆の夜になるのだろうと思う。

リカバリに入ってから部長の指示で判断を下そうとする私に、彼はやたら食らいつくように、自分の意見を言うようになったと思う。先日の社内ヒアリングで、現状を正確に淡々と話し、素直に反省する私と比べ、結果的に言い訳に終わってしまった、彼の胸中には、やはり嫉妬めいた感情が生まれたのであろうか。

嫉妬は良くない感情だと思う。しかしそれが生きるきっかけになる事もあるのだと、いう事も分かった。結果的には功を彼に譲るのが一番なのだろう。また憎まれ役だと思うと少し、気が滅入る。ただもう慣れたことではあるが。

Excel を埋める数字は、熱帯夜。

考葦子