辞書

今日、久々に辞書を引きました。研究社の英和辞典で10万語登録の少し良い物です。今日は例の大惨事*1の影響で以前、開発して一般公開しているページに急激に海外からのアクセスが増えたので、その英語版を作るためでした。普段は goo の英和辞典機能で軽く済ましていますが、やはり公のページであり、公的機関からのアクセスが多いので、表現には気を使います。文面だけで意図を伝えるのは、公になればなるほど、誤解を生まないように慎重さが必要です。そういう時は goo では内容が間に合いませんし、やはりエディタで文章を推敲しながら、PCの前に置いて手元で見れるという意味では、辞書の可搬性は便利なものです。
辞書だとやはり目的の箇所にたどり着くのに多少時間は掛かるのですが、「最適な表現はあーでもない、こーでもない」と考えるのには、ページを手繰りながらと言うのが案外と馴染むんです。不思議な物です。やはりそのページを手繰る時間というのが必要なんでしょう。局所的には効率悪くても、大域的にはかえって良いという気がします。goo は便利なのでつい使ってしまうのですが、考えてみれば反面、用語例や語彙がそう豊富でもない事が多いです。便利さが内容の不足を隠してしまっているんでしょうか。表現とか言葉の意味って、同じ日本語を話す者どおしでも、意味がずれる事が割りとあるんですから、ましては外国語、意味と表現の適切さ十分に考えるには、なぜか紙に印刷された辞書を少し時間をかけて引きながら言うのが良く似合うんですね。


本当に最近、日本語を使って言葉の持つ意味を深く理解しあう事が如何に難しいか、実感する事がありました。mixi の会員なのですが、そこのソフトウェア工学のコミュニティでモデル駆動(MDA)についてのよた話から始まって AOP*2や概念としてのアスペクトとは何かみたいな論議をしていました。しかし概念について語りあうと言うのは往々にして、ボタンの掛け違えを展開するケースに陥る可能性があります。例えば、concern*3 、日本語では関心事と約されるのですが、コミュのトピックで紹介されていた情報処理学会誌の論文の脚注には以下のように書いて有りました。

ここでは concern がプログラミング上の特別な概念であることを考慮し、普通名詞的な「関心事」ではなくカタカナの「コンサーン」と言う訳を用いた。

つまり、辞書が通用しないんです。多分に英語圏の人の会話でもこの文脈での concern はよくよく勉強しないと理解できないんでしょうね。ましては日本語に治すなんて!!

おまけに、個人的に以前、教育情報システム(CAE)の仕事をしていた時に「concern oriented」 なんて言葉が出てきたのですが、ここでの concern は上記の意味での言葉ではなく、教育情報システムの領域(domain)における固有の概念だったりします。要は教材の内容に対するユーザー(学習者)の関心部分と言う意味で、その関心部分を教材提供者の意図する事(学習させたい事)となるべく一致するように、ユーザーの操作や視点を誘導して行くことがシステムの目的であり、操作性や教材の内容を設計する上で非常に重要なわけです。協調学習などネットワーク化された場合は、作り付けの教材だけでなく、他のユーザーの入力内容まで含まれてくるので、認知的なアプローチも必要になってきます。さて、「教育情報システムの開発をオブジェクト指向でやります。AOP も活用しましょう。・・・ で その concern についてですが、・・・・」って言う時は、普段よりも注意深く文脈を読む必要があるんですね。(ー。ー)フゥ・・・・

あと「アスペクト」上記の情報処理学会誌の記事のタイトルは「Discussion Aspects of AOP」(AOP におけるアスペクトについて論議する)ですが、アスペクトとは何かという定義づけも、説明もなんか曖昧なんです。・・・・結局肝心なアスペクトとは***の事ですと言う概念的な説明も無く例示・暗喩だけで終わっているんです。まー何となく、Aspect ですから側面とか言う意味なんでしょう。システムの仕様における特定の着眼点からみた性質みたいな物でしょうか。つまり concern の対象となるシステムの一面的な特徴、様相のうち汎用的に再利用な部分を独立して Aspect と呼ぶのでしょうか。*4

が・・・・例えば

「システムはこの部分にはこの「アスペクト」を適用しよう。・・・・・では仕様書を書き直してください。あー仕様書における「アスペクト」はちゃんと正確に誤解の内容にね。でないと処理実行のタイミングが正確にならないから。」

っていう場合、一番目の「アスペクト」と2番目のそれは意味が違うんです。言語学の文法理論において、「アスペクトは」動詞の時相(時制表現)のことを意味します。完了か継続か進行形かみたいな物です。英文法で現在完了・過去完了って習ったと思いますが、4つぐらい使い分けがありましたよね。完了、継続、結果など。この辺の表現の時間的な意味の違いを「アスペクト」というみたいです。確かにプログラムを組む上で処理の順序って大切ですよね。並行処理や分散処理など複数の種類の違うタスクが絡むと特にそうですし、リアルタイム系のソフトウェアではその辺が命です。・・・・・文脈を読みながら意味を使い分けていかないといけないのでしょうね、「アスペクト」も。*5

その言葉は、その言葉以外のことを意味しない。その言葉で思い浮かべるあれこれは、人によって全部違うけれども、意味と言うのは、絶対に同じ共通の物なんだ。だから人と人とは話ができるし、ああ分かっていないなとわかったりもできるわけだ。もしも言葉の意味が共通の同じものでなかったら、どうやって人とは話をしたものだろう。君はわかっていないって喧嘩することだって、できないはずじゃないか。

ところで、人というのは全部が違う人だけれども、この絶対に同じ共通の意味というのを、じゃあ、どうやってわかることができるのだろうか。

14歳からの哲学、考えるための教科書 池田晶子 トランスビュー 2003、4.言葉 [1] から

しかし、本当に分かり合えるって、一体どういうことなんだろうか。言葉が先か、意味が先か。・・・・

そう言えば、Semantic Web ではコンテンツにメタデータを付加して、メタデータの意味はオントロジー(語彙集、用語辞書)で定義して、j柔軟なシステム間連携を図るって考えだったかな。実現性はともかくとして、着眼点はいい所をついていると思うな。そう双方の話す意味がずれていたって、会話が成り立つ時だってあるんだし、案外といい加減さを許容するなら、実現可能性もぐっと上がるかもね。

「『いい加減さ』って、その意味は?」・・・野暮な話だ。そんなの簡単にわかるはず無いじゃないか。・・・まったく、やれやれ。・・・・

14歳からの哲学 考えるための教科書

*1:昨年末のスマトラ沖大地震とそれに伴う大津波のことです。

*2:Aspect oriented programming (アスペクト指向プログラミング)

*3:要はシステム仕様や設計時における特定の着眼点から見た実現した事、ああこの定義で良いのかどうか分からない!!

*4:逆かな・・・・、分かりますか。私が何を言いたいのか。自分でも自信がありません。

*5:まー時相のほうの「アスペクト」は日本語としてはあまり使わないけどね。