交通事故(2)

前の記事に書いた通り交通事故にあってから一週間を超えました。あれから4,5日はちょっと後遺症からか、頭に軽い圧迫感を感じたりしていました。それも大分無くなってきました。入院した友達も通院治療に切り替わり、何とか回復に向かいそうです。
今日はバス会社の人が菓子折りを持ってお見舞いに来てくださいました。他の人の様子を聞いてみても、ほぼ皆さん大丈夫なようで何よりです。ただ運転手の方の処遇がどうなるのかが気になったので、ちょっと聞いてみた所、まだ処罰の方は決定されていないようでした。バスの事故だったので、怪我をした乗員全員から事情調収を取らないといけないからだそうです。運転中の不注意による業務上過失障害という事で処分が進むような事を言ってました。

事情調収を受けに、京都県警の高速道路交通警察隊に行きました。なんか随分みんな忙しそうでした。多分、私の事故の二日後にあった。例の3名の死者をだした。タンクローリー車の事故のせいでしょうか。ちょうど部屋に入る直前、例のキャリア50年の元看護婦さんともまたばったり出くわしました。「あの運転手の減刑嘆願しましたよ。」と言っていました。実際に事情調収で担当の警察官の方とやり取りをしていましたが、バスはどの車とも接触せずに単体で側面にぶつかっているので、基本的な責任はバスの運転手にあると言うことでした。正直違和感を感じましたが、とりあえずは私が把握している限り当日の状況を説明する事にしました。最終的なやり取りの後、出来上がった調書を一読すると私が説明した事故の経緯が綴ってから

  • 「事故の責任はバスの運転手である。」
  • 「しかしながら、バスの運転手については減刑嘆願を希望する」

と言った記述になっており、誘導尋問に近くないかと疑問に思った物です。
実際に、バスの乗客の大半は、運転手のとっさの判断を「ナイスジャッジ」だと評価していました。バスは上手い具合に、道路の側壁に擦るようにして速度を落とし停車したのですが、ブレーキをかけるタイミングが遅れ、ハンドルを切り損ねていれば、そのまま側壁を突き破っていたでしょうし、ハンドルを切らなかったら前の車に追突していたので、吹き飛ばされた友達はフロントガラスを突き破って、そのまま棺おけに足を突っ込んでいたでしょう。右側に切っていれば、後続車が追突する可能性がありました。大型トラックだったら後部座席の乗員から死者が出たでしょう。

「安全」へ導くインセンティブの欠如

日本の自動車交通システムの安全について、総合的な対応策がまだまだ欠けていると申しました。それは車の交通を取り囲む環境についての工夫の余地が、多く取り残されていることを意味します。例えば、東京都内の主要交差点での事故を丹念に、しかも比較的時間をかけて統計的に調べてみると、目立って事故件数の多いところ、少ないところがあります。
こうしたデータは、警察も把握しているはずなのですが、民間の研究者グループの研究結果は、色んなところから制約があって、公表に手間取っている(地価に影響するなど色々絡むようですね)と聞いています。
しかし目立って事故件数が多い交差点というのは、明らかに改善の余地があるはずです。交差点ばかりでなく、カーヴのような道路のごく普通の環境でも、事故多発地点があります。地域の警察や安全協会が「事故多発地点」と言う看板を掲げているのに出くわすことがあるのも、そうした事実を物語っています。しかし、ドライバーに看板に注意を促すのも結構ですが、何故そこで事故が多発するのか、個々の事故の詳細を、ドライバーのミスも含めて克明に調査し、道路環境の側に改善すべき点が無いのか、を「フェールセーフ」の立場から徹底的に論議、立案、実行すべきなのです。実際に北海道のある道路のカーヴにおいて、事故が多発していました。さすがに放置できなくなって、工学者、心理学者などの協力の下で、綿密な調査を行った結果、道路の傾斜角に問題があることが判りました。そこで傾斜角を変更したところ、多発していた事故が激減した、というような実例があるのです。

村上陽一郎著 「安全と安心の科学 (集英社新書)」 第一章「交通と安全」より引用。

事情説明の最中、「あなたは今回の事故の原因はなんだと思いますか。」と尋ねられました。以下のように答えました。

  • 「第一に前に居た車の不注意」
  • 「第二は道路の構造上の問題だ」

少し論議になりました。警察としては早々に「バスの運転手の不注意」で済ましてしまいたいのでしょうね。*1 名神高速から京滋バイパスに抜ける分岐点での事故でした。事故発生後に大型の救急車に乗って、その京滋バイパスへの分岐路に入ってから、高速を降りたのですが、道が狭く、起伏が結構あり、おまけに道路側面の壁が低いので*2、ちょっとしたジェットコースターかと思えるほどで、事故直後でもあったせいか、正直かなり怖かったです。(実際に地図で見るとやはりジェットコースターのような感じです。
警察の人にその事を指摘すると、壁が低いのはドライバーに心理的なプレッシャーを与える事で、運転中に減速させる為だと説明されました。確かに安全学でいう「ナチュラル・マッピング」の考え方を逆手に応用したのかとすぐ理解できました。ただ、これも心理的プレッシャーが正常に掛かればという前提条件があります。もしその前提条件が崩れたらどうするのか。そこまで考えないといけないのではと思いました。実際に知人に聞いたら、あそこは分岐路に入ってから急に登り斜面となるので、無意識にアクセルを踏んでしまうとの事です。別に公道レースに挑戦する暴走車が来るとかそういう問題ではありません。

根本的にに分岐点の道路幅が狭いのです。地方の分岐点、例えば中国自動車道舞鶴道との分岐点なんかと比べると全然狭いです。警察の人も場所が狭いからしかた無い事は認めていました。 *3 確かにその部分は警察ではなく、高速道路会社の責任ですよね。事故現場付近の道路環境は、場所が狭い上に分岐点でのナビゲーションが若干判りにくいので、正しい進行方向への判断に狂いが生じる事もあります。おまけに判断を間違えても、そのまま突っ切るしかありません。スペースにほとんど余裕がないので、車を避難させて、方向転換などまず出来そうにありません。そうなると目的地とは全く違った方向に行ってしまったことで慣れていない人はパニックです。この段階で先ほどの減速に対する心理的なプレッシャーの前提条件は崩れてしまいます。そうして予期せぬ運転判断の狂いから連鎖的に、今回私が蒙った予期せぬ事故が発生するかも知れないです。それを全てドライバーの注意力だけの責任で片付けるのは、ちょっと無理があるのではと思うのです。

最近、将来の高速道路拡張計画が基本的に全て承認されたといった記事が新聞に載っていました。新しい道路への投資をもって、現存する債務とのバランスや採算面などの経済性の観点でその是非を問うような論調が多かったと思います。そうではなくて、優先すべき点は何かという観点で、交通の量の多い道路の安全の確保を根本的な道路環境の見直すような部分へもっとハード・ソフトの面で投資をして欲しいと思いました。そうした論議が結局なされなかった事が少し残念だったと思います。

今はただ、また同じ場所で事故が起こらないように願うしかできません。

安全と安心の科学 (集英社新書)

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*1:多分に責任を逃げた前の車にしてしまうと捜査にかなり時間が掛かるのと、バスと直接接触が無いので、立件にかなり手間が掛かるせいでしょう。

*2: 実際に120cm 程度しかないようです。

*3:というか、都市部なので拡張工事のための用地買収にコストが掛かるのでしょうね。