ある勇気あるジャーナリストの殉職

ロシア政権批判の女性記者が殺害される・通信社報道

 【モスクワ7日共同】インタファクス通信によると、プーチン政権のチェチェン政策などへの厳しい批判で知られるロシアの著名な女性ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤさんが7日、モスクワ市内の自宅近くで殺されているのが見つかった。

 警察当局によると、遺体には銃撃の跡があり、射殺されたとみられる。

 ポリトコフスカヤさんはテレビ記者を経てノーバヤ・ガゼータ紙などで活動。独立を主張する南部チェチェン共和国の独立派を武力で抑え込んだプーチン政権の強権的手法を批判していた。 (23:46)

Nikkei NET、10/07 の主要記事より引用。

密かに尊敬していた、ロシアのジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ女史が殉職された。2年近く前に、アンナさんのチェチェン紛争での活動の記事を読み、その文字通り、命を張った義人ぶりに、思わず涙が出て、すぐにその著書「チェチェン やめられない戦争」を読み、その内容に強い衝撃を受けたと思う。

著書に書かれている彼女の文章はジャーナリストとしては、いささか感情的で、すでに冷静さ、客観性を欠いた物だったかもしれない。しかし、自らの非力や身の危険を省みずに紛争犠牲者のために奔走する、その姿勢や態度は、読むものに襟を正させる強烈な何かがあったように思える。
戦争という地獄を前に、凡人が往々にして、目をそらし無関心を装ったり、ヒロイズムのオブラートを被せて、いびつに美化したりする傾向のある中、一個の人間としてどこまでも、武器を持たない弱者の側に同じ目線で立ち、その耐え難い現実を発信してきた彼女の勇気には、深く敬意を表したい。

個人的には、職業における倫理や勇気といったものを彼女の著書を読んで、深く考えたと思う。最近、デスマーチの最中にいるのだが、小さな面倒におびえる余り、何か大きな物を失っているような気がする。もう一度、勇気をもつことについて、考えてみようと思う。

あと、「ペンは剣より強し」とことわざにある。はじめは理想論だと思っていたが、アンナさんを知ってから考えを改めたように思う。今回、アンナさんは凶弾に倒れたわけであるが、これは、決して良識が暴力に屈したわけではない。ロシアで多くの人が、彼女が亡くなった後に花をささげ、抗議の意を表したことを観て、強くそう思った。銃弾を放ったものは、彼女の勇気と良識を恐れるが故に、そうしたのであり、武器による恐怖でしか人を動かせない、自らの弱さを暴露したのも同然であると思う。つまり「銃はペンに負ける」と恐れたからこそ、暗殺テロのような、卑怯な手をつかったのだ。

願わくば、彼女の死が無駄になることなく、彼女の残した軌跡が、引き継がれ、一日も早く、チェチェンの紛争地帯に平和がきますように。それは、単なる一地域の特殊な問題ではなく、全世界における紛争、戦争において、国や民族の違いを超えて、共通する構造を持つからである。

それが多分、亡くなったアンナさんへの一番の手向けになるような気がする。

合掌

チェチェン やめられない戦争

チェチェン やめられない戦争