物言わぬ語りを聞くという事(名前と形と実体と)

中国の古代神話に混沌と言う神の哀れな運命をつづった話がある。

むかし、混沌と言う神がいた。形は球状の体に足が4本はえ、体の表面は全てにのっぺりとしており、何も無かった。
ある日、混沌は他の神々から宴席によばれた、歌舞を見て、上等の食事を饗され、混沌は上機嫌だった。

招待した神は混沌には目も耳もないが、目や耳があればもっと歌舞を楽しめるのにと言って、混沌の体に穴をあけて
目と耳をつけた。また混沌に口があればご馳走を味わう事が出来、もっと喜ぶことが出来ると、さらに混沌に大きな
穴をあけ口を作った。

混沌は宴会が終わるやいなや、穴をあけられた傷が元で亡くなってしまった。

The Big Issue Japanと言う雑誌で、最近アメリカでの行き過ぎた心理療法に関する記事が載っていた。心療医師が催眠術で誘導尋問を行い、結果的に女性の患者に父親から性的な虐待を受けたとの偽の暗示を与えつづけ、その家族をボロボロした挙句、クレームを投げるとその医師が雲隠れをしてしまったと言う話である。

人間は目の前に不可解な現象が起きると何がしか枠組みを与えて理由付けしようとする。不可解と言う混沌に対峙した際に覚える不安から逃れようとする心の働きがあるのだろうか。理由を与えて何とか解釈する事を優先してしまう。結果的に自分の世界を作ってしまい、そこにしがみ付いてしまう事で、色眼鏡で物を見てしまう。素直に現実を直視する事を忘れてしまうのか。

占星術を嗜んでいる関係で人の相談に乗る事がある。先日、こんな相談があった。母親が子供をつれて相談にきたのであるが、子供の進路についてだった。母親の話ではその子は、何とかかんとか自由症*1 と医者で診断され、学習障害とチック症も伴っているそうだ。確かに寡黙でちょっと変った雰囲気の子であった。母親はこの将来について、医者で言われた事も合わせて心配している事を説明して、ついでに主人もあまり理解してくれないような愚痴も出て来て、どうすれば良いのかと聞いてきた。不安なのだろう。当たり前である。長男でもあり、やはり母親から見れば特別かわいいのであろう。医師の診断で直るかどうか分からない病気といわれれば、やはり心配になるのは当たり前である。

聞いていて、だんだんと腹が立ってきた。まさか怒るわけにも行かないし、どうしようかと思った。何に腹が立ったのか上手く説明できないが、とりあえず私は医者ではない。その子の病状について正確な診断も出来ないし、その子が本当に病気であるかどうかも分からない。病気の何がその子の将来に暗い影を落とすのか分からない。結論を言った。

私 :「とりあえず、この子の好きにさせれば良いんです。お母さんは黙って見守って上げれば良いんです。」
母親 :「・・・けど、この子は」
私 :「この子は好きな事には一生懸命打ち込める子だから、それでいいんです。何も心配することは無いんです。」
母親 :「しかし、この子の病気はどうすれば良いんですか。」
私 :「この子は職人肌な子ですね。職人には個性的で変った人も多いですよね。病気というより、個性が強いぐらいで良いんじゃないですか。」
母親 :「・・・・・」

そう、私は医者ではない、占星術師である。なんでその子の病気のことについて、事細かく分析しないといけないのか。そんな事分かるはず無いじゃないか。お門違いな事を聞かれても困るのである。私は占星術師である。

私 :「とにかく、この子は何も心配要りません。お母さん」
母親 :「そうでしょうか。・・・私、この子が落ち着かない限り、私も落ち着けないんでしょうね。・・・・」
私 :「(-_-x!) (ぶち・・・・) そりゃ、逆でしょう。お母さん、あなたが落ち着かない限り、子供が落ち着くはずないでしょう。誰の子供ですか、子供は親の背中をみて育つんですよ。・・」
母親 :「えっ・・・・」
私 :「そうですね。今日は言うべき事はお話したのでぼちぼち終わりましょう。」

何度も言うが、私は占星術師である。運命学の知識と技術に基づいてその人の運勢・運気を占う事がその役割である。病気の診断ではないである。

子供 :(突然、直立不動で、大きな声で)「どうも、ありがとうございました。」
私 :「どう致しまして。・・・・お母さん、立派に育ててきたんじゃないですか。この年でちゃんとここまで礼儀正しく、ハキハキ挨拶できる子って少ないですよ。」
母親 :「はー、そうでしょうか。」
私 :「えー、この子は礼儀正しく、立派な子ですよ。」

さすがに、母親を落とすだけ落としてしまったので、最後は何とか持ち上げる事が出来て良かったと思う。

当たり前の話であるが、私は子供の将来について占っているのである。その子の取り巻く環境や、心情を読み取り、その子の将来にとって一番、何が必要かを判断しアドバイスするのが、その任である。占盤から私がこの子に一番必要なのは「自由」であり、「自信」「信頼されること」と読み取った。思春期を過ぎ、大人への道を歩みつつあるこの子にとって、訳の分からない病気を理由にいたずら自分の将来に暗い予想を投げられるのはたまった物ではないと思う。病気の影響か言葉が少なく沈黙してしまう事の多いこの子にとって、自分の思いを上手く説明できない事は非常に苦しい事だと思う。往々にして、親は心配と不安がごっちゃになって、子供に対して気持ちを理解する以上に、自分の不安をぶつけてしまう事も多々ある。また病院の先生も状況と客観的に理解し、理由づけを行う事に重点を置いてしまう場合もある。だから誰かがその子から一人の人間として、その意を汲んで代弁する事も必要だと思った。見えない物を見るための占星術だと思っている。

その子はさらにもう一度深々と礼をした。私はやはり占星術師で有って医者ではない。病気に対しては無力かも知れないが、生きる希望みたいな物をその子に届ける事は少しばかりは可能だと思っている。混沌は本当は目も耳も口も無くても宴会は楽しめたののである。解明されていない現象をもって、病気と名づけても良いが、それを理由にその子の手足を縛ってしまうのは、どうかなと思う。

*1:難しい名前だったので覚えられなかった。