料理。

母親が料理をまともに作れなくなってきたのは、多分1週間前の日曜日ぐらいだったと思う。もともと料理が好きで、というより凝り性で、自然食品や有機栽培の野菜・果物には人一倍敏感であった。生協を活用し、近所のスーパーでも決して素材にはお金を出し惜しみしなかった。外食をほとんどしなくていつも家で自分で料理した物が一番だというのが口癖だった。

そんな母親がいろいろ有って、心を病んでから家にいるのが怖くなって、何処にも安心入れる場所が無くなって来て、家で秋刀魚を焼いたら煙が出るから隣近所から責められると真剣に不安がり、結局買い物にも出なくなり、だんだん料理をするのも怖くなってしまった。出来合いのサンドイッチやおすしで晩御飯を済ますようになってしまった。最近は家を出ようとするので、何処へ行くのと聞くと不安そうに「分からない、けど追われているから」と玄関で不安な顔をして1時間近く躊躇しながら、出て行ってコンビニのおにぎりをデパートの屋上で一人で食べて、何もせずにぶらぶらして帰ってくるいる事も多くなった。けど寒くなる時期だし、あまり外には出て行って欲しくないと思う。
母親は今日は家にいたけど、結局何も出来ずでした。ずーと出かけようか、どうしようか迷っていました。最近はあまり栄養的に食事が偏っているし、今日は日曜日なので私が料理を作ってみようと思いました。

「昨日、野菜が少ないので買い物に出て買い足した野菜がある。」
「買ってきたもやしは早く食べないといけない。」
「冷蔵庫の中も段々と中身が少なくなってきたけど、まだ大丈夫。」
「豚肉はもやしと炒めるとおいしそうだな。そうだ野菜炒めにしよう。」
「けど、ご飯の炊き方分からない。どうしようか。」
「母親はガス炊飯器や電気ジャーを一切使ってなかったもんな。」
「その方がより自然だからっていってたけど、こういうとき不便だ。」

結局、母親になべを使ったご飯の炊き方を教えてもらい、本当に久々にご飯を炊く事にしました。

「玄米を精米機に掛けて、おっと米が飛び散る。受け皿を置かなきゃ。」
「水加減は少し多め、いつも固めだから、本当は柔らかいのが好きだし。」
「もやしと豚肉、と何を炒めようか。・・・人参と茄子もいれようか。」
「緑が少ないから大根葉を加えよう。干しえびが冷凍庫にあったからあれも使おうか。」
「豚肉、冷凍しているけど解凍しないといけない、うーんこういう時は電子レンジは便利だな。」
(母親が電気の調理器きらいなので家には置いていない。)
「油は・・・オリーブ油しかないの?まーいいか。香りも良いし。」

そうやってご飯を炊いたり、豚肉の解凍や炒め物に悪戦苦闘していると、「大根葉は湯を通した方が良い」とか、「干しえびを戻した汁はだしに成るから、それを入れて煮込めば少し味が出る」とか母親が色々と口を出してくれた。あと冷蔵庫から山芋を出してすりおろして小皿に盛り始めたりもした。すこし嬉しくなった。

ご飯は思い通り、少し柔らかめ。思ったよりなべを使ってご飯を炊くのはそう難しくない。野菜炒め、味付けは大ざっぱで少し油っぽいだったが、文句も言わず食べてくれた。ここ一ヶ月ぐらい母親は体調を崩していたり、無気力だったりで食後の皿洗いも私がやる事が多かったが、今日はすべて母親が自分で行っていた。少し文句も言いながら「野菜炒めで使ったなべが大きいから洗いにくい」とか。少し前の母親らしい。何事も無い時は単にうっとしいだけの台詞でも、こういう時はなぜか妙に懐かしく、嬉しくなる。

いつもどおり、何事もない生活。・・・・まだ先の話かな。でも無為無策で極力、何事もない生活を過ごそうと思う。