ちーちゃん。

先日、人の個性についての記事を書いたが、書いた後に思い出したことがある。

「ちーちゃん、危ないからこっちに寄りなさい。」

若い母親が、子供を路の脇に寄せようと声を掛けていた。聞いた事のある声、見覚えの有る顔。3年程前のことだろうか、ちーちゃんのママにたまたま出くわしたのわ。おばあちゃんも一緒だった。懐かしく思い声をかけると向こうもこちらの事を覚えていてくれて、挨拶を交わし、少しばかり立ち話をしたのを覚えている。

「旦那さんは元気にしているの?」
「ううん、実は交通事故で大怪我して入院しているんです。」
「大変やな。」

そんな感じで少しお見舞いの言葉を言って分かれたと思う。
イベントのちょっとした人寄せに占い師としてよく呼ばれる事がある。自分でも随分長くやっているような気がする。ちーちゃんのママに始めてあったのはそんなイベント会場で占い師をやっている時だった。そんな場所にちーちゃんのママとパパが彼女のお母さん(ちーちゃんのおばあちゃん)に連れられてやってきたのである。

ちーちゃんのおばあちゃん:「すみません。あのこの娘とこちらの彼氏の相性を見て欲しいんですが。」
私:「あーいいですよ。少し待ってくださいね。・・・・・・」
ちーちゃんのおばあちゃん:「どうでしょう。」

少し、緊張しながら聞いているちーちゃんのママとパパ。知人の中年の主婦が私も占いの仕方勉強したいと見学しにくる。ちょっとした見世物か。少しやりにくい。

私:「えーと、彼女16、彼17歳。ふーん。彼女、尽す人、彼、尽される人。ちょうど良いんじゃないですか。」
ちーちゃんのおばあちゃん:「そうなんですか。実はこの二人結婚するんです。」
私:「あーそうですか。夫婦仲はいい方でしょう。そういう意味では問題なしです。」
ちーちゃんのおばあちゃん:「良かった。・・(娘に向かって)良かったね。」
ちーちゃんのママ:「えー、へへへ。」

少し嬉しそうにするママ、小柄で丸顔。目のくりっとしたかわいい子。
恥ずかしそうなパパ、体はでかい、顔も少し厳つい。その辺、不器用なのかもしれない。
隣の主婦が少し怪訝な声。

見学の主婦:(小声で)「17,16歳ってぎりぎりちゃうん。」
私:「えーやん、別に占段上、問題は無いし」
見学の主婦:(小声で)「けど一般常識から考えてやな。苦労するし、普通は止めるで・・・・」
私:「お母さんはどう思っているんですか」
ちーちゃんのおばあちゃん:「私は娘が決めた事だし、この子の思うようにするのが幸せかなと思うんです。」
私:「へー、じゃあ良いんじゃないですか。(ママとパパを見て)あなた達は結婚したいんでしょ」
ママ:「はい!!」

しばらく雑談っぽく、相手の身上を聞いて行く。ママは歌が好きで友達とバンドを組んだりしているそうな。旦那も就職先を見つけて働き時始めたばかりだそうだ。貯金もあまり無いので式は挙げずに身内でパーティを開くそうな。ママの方がおしゃべり、自分の好きな事とか良くしゃべる。ママとおばあちゃんとは仲良し、愉しそう。パパは無口。そんなもんだろう。何の話題がきっかけだったか。忘れたがおばあちゃんがこう切り出した。

ちーちゃんのおばあちゃん:「実は・・この娘のおなかに赤ちゃんいるんです。」

隣の主婦、少し怪訝な顔、ママとパパ少し顔を見合わせ恥ずかしそう。とりあえず私は涼しい顔。

私:「子供のこと好き?」
ちーちゃんのママ:「大好き!!、早く会いたい!!

即答、0.1 秒。迷い無し。旦那を見る。真剣な顔。
私、少し黙考、約1秒。

私:「おめでとう!!」

そう言って二人を祝福する事が一番良いような気がした。隣の主婦が少し大丈夫って顔。

主婦(小声で):「しかしあんた、ええんか。そんなんで」
私:「えーやん。歳のわりには、立派な態度やし」

実際に立派だと思う。普通なら遊びたい盛りだろうに。
子供が出来た事も、結婚することも、両家、家族の間ではちゃんと話し合いは済んだのだろう。しかしやはり17歳と16歳である。世間は平成不況の真っ只中。気持ちが固まっても冷静には不安に思う部分もあるだろう。だから祝福する事がこの子達にとって一番嬉しいことのような気がしたのだ。

私:「えらいね。正直私は結婚もしていないし、子供もいない。だからこれからの家庭の作り方についてアドバイスも出来ない。けど私よりもずっと年下のあなた達は、結婚して家庭を築き、子供を育てようとしている。普通なら遊びたい、自由が欲しい盛りなのにね。そういう意味であなた達は私よりも大人だと思うし、その気持ちとか覚悟の部分は尊敬するよ。」

素直にそう思ったことを言った。パパとママ、少し真剣な表情。

私:「(パパの方を見て)だけど、就職してね、社会の一員としてなら、私の方が先輩なんだ。経験もあるしさ。
これから、あなたは一人前を目指して、仕事で頑張って行くんだと思う。子供も出来るから早く一人前になろうと気負う部分もあるだろうね。しっかりしているし、精神年齢が高いからさ、その分、自分が職場の中で、未成年、若輩ものとして見られることに内心プライドに傷つくことが多いかもね。いろいろと葛藤もあるわさ。
けどね逃げちゃ行けないよ、若いんだから。多分、あなたは家族は守るって責任感と焦りで、随分悩む時期もあるでしょう。だけどそのうち気づくよ、あなたは一人じゃない。彼女や子供にも実は支えられているって。そうやって人間って大人になっていくと思うんだ。悩まないで歳をとっても、歳を取るだけで大人にはなれないよ。まだ意味がピンとこないかもしれないね。けどね、それでも良く覚えておいてね。いつかその言葉の意味を実感する日もくるさ。
けれどそれには経験が必要なんだよ。そして、内心ね、あなたが反発している周りの人の中にはそうした経験を経て本当に大人になった人だっているんだ。だから素直に人から学ぶって姿勢も大切なんだ。学ぶ人は選ばないといけないけどね。尊敬できる人はいる?」
パパ:「えー、まー」
私:「それは良かった。・・・・・」

そんな事を畏まって、少しづつ話をしていると、隣の主婦が「そんなに世の中甘くないで・・」とか茶々を入れるし。少し時間が長引いたので、とりあえず一区切りをつける。パパ、席を立って、なんか肩こったって感じ。仕方ないだろう。それだけ真剣に聞いてくれたという事か。

自分たちの未来を自分たちで決めて、親からもちゃんと理解を得ているし、正直、この二人を羨ましく思った。そしてやがて生まれてくるちーちゃんの事もそう思った。少なくとも 0.1秒の反応速度で「大好き!!、早く会いたい」である。パパとママに子供を育てるという事に関しては迷いは無いだろう。めーいっぱいの愛情はお金ではまず買えそうにも無い。私の両親は学歴も高いと思う。しかし自分が親から受けた影響と比較して考える、この二人の子供の方が子供としては幸せだろうと思った。そうパパもママも自分を見失っていないし、迷いも無い。若いし、世間も知らない分も生活を成り立たせると言う意味では不安もあるだろう。だからここに来て私に占段を依頼したんだ。だから、私はまずは祝福したい、そう思ったんだ。

自分の生き方を自分で選ぶというのは難しい事だと思う。その価値判断の基準ってのは、結局突き詰めれば、好きか嫌いの主観になる。個性なんて、人から与えられる物じゃない。ちーちゃんのママの「大好き!!早く会いたい」ってのは、彼女の個性であり、人格の根っこであると思った。これからも色々と有るだろう。その後久しぶりにあったちーちゃんのママは随分落ち着いた雰囲気だった。それだけ色々と経験したのだと思う。

前回の記事で引用した新聞記事の内容をもう一度挙げる。

・・・もう一つ考えられるのは、性急な「私さがし」を子どもたちに求めないという方向である。

「自己」とは長い時間かけて社会的に作られるものだと、ということを子どもたちに理解してもらう必要がある。

学生時代に「自分とは」悩んだ人が、仕事に打ち込み家庭を持って一生懸命生きてきて、ある時ふと、かけがえのない「自分らしさ」に気づく、といったことは、多くの大人が経験してきたはずである。・・・

平成17年1月17日 日本経済新聞、19面「今を読み解く」東京大学助教広田照幸 より抜粋。

本当の意味で、子供の自己を受け止めて、意志や判断を尊重するという事は、それだけの度量を大人にも要求する事なのだろう。ちーちゃんのパパ、ママへの占段では、自分でも受け止める事が出来たと思っている。占い師冥利があるとするなら、こういう経験を言うのだろう。多分にそれは私自身がそうされたいと願っているのかもしれない。まだ実感は薄い。
「情けは人の為ならず。」
考えてみれば、いろいろと世話になっている人も多いような気がする。あのような受け答えが出来たのも、案外と私の気持ちを以前にそう受け止めてくれた人がいたからのような気もする。経験の無い事を実践するのは難しい。忘れているだけなのか。つまり多くを願うより、足るを知るということか。しばらく考えようと思う。