インターネット。

インターネット、って何だろう。先日の記事に対するコメントをきっかけに改めて考える。*1いつの間にか日常生活の一部となり、インターネットを使った通信販売の会社がプロ野球球団を持つ時代になった。10年前を考えると随分とインターネットを取り巻く環境も変ったと思う。と同時にインターネットに対する勘違いが全く洒落にならないケースも出てきた。壮大な実験環境がいつの間にか実際の生活空間となり、理想と現実のギャップが大きくなってきたという事か。

「インターネット」という名前が何を表しているのか。その辺を考えると割りと本質に近づけるような気もする。つまり

「インターネット」= 「インター」+「ネット」

という事である。「ネット」は通常のコンピュータネットワークを意味する。「インター」は連携する。特に異なるものを繋ぐと言う意味がある。例えば、

  • インター・ナショナル(異なる国々にまたがって)
  • インター・チェンジ(高速道路と一般道をつなぐ)

等を考えれば分かる。つまり、異なるネットワークを繋ぐためネットワークという事になる。元々はアメリカの国防総省の支援を受けた 実験的な ARPA ネットがインターネットの始まりとも言われているが、当然その ARPA が相互接続しようとした別のネットワーク*2もある訳で、その起源を一つに絞るのは難しいと思う。 もともとはコンピュータサイエンス関係で、プログラムなどのデータを共有すると言う動機でとにかく繋ごうと言うことで始まったネットワークだそうだ。とにかく多分、テキストベースのプログラム等をやり取りするために異なる物をつなぐという事で、それまでの通信システムの構築方法のように厳密な進め方をせずに、とにかく繋ぐというのがその方針だったらしい。そもそも異なるネットワークを繋ぐ事に、どんな意味が可能性があるかなんて、最初はごく少数の人しか意識していなかったと思う。だから最初はボランティアベースでネットワーク間のネットワークの構築が始まった。そして以下のような方針で事を進めていったそうな。

  • 仕組みは厳密性より、簡潔さを重視。少々の不都合は冗長性でカバーか。
  • とにかく机上の仕様よりも動いているプログラムを重視する。
  • ボランティアベースだから話し合いをベースに方針を決めていく。あくまで実現可能性に対する技術的な根拠に基づいて論議を進める。

1990年代の前半までは、こうした方針に基づいてインターネットは構築・発展してきたと思う。インターネットの技術的な取り決めをまとめた物が RFC (Request for Comment) って名前なのもこうした背景があるんだろうな。以前ならインターネットにアクセスしている人の間では常識だったような事だが、今ならどうだろう。インターネットのルールの日本語訳が「コメント頂戴」って果たしてインターネットにアクセスしている内の何%ぐらいがその意味を分かるんだろうか。

新しい技術が作られて、それが正しく運用されること、それにともなってアドレスとドメインがきちんと割り当てられること-- これだけできていればインターネットはうまくいくわけです。そのためのミニマムな仕組みを世界でつくっておけばいい。それだけを考えて、それ以上のよけいなことは考えない。そして、やるときは必ず、エンジニアからのフィージビリティ(実現可能性)の報告に基づいて進めていくことが重要な特徴です。そのためにポリテックスが入りこむ余地がほとんどなくなってきているわけです。

「インターネット」 村井 純 著 岩波新書 416. 1995 岩波書店。P169 より引用。

よくインターネットは誰が管理しているの?って訊かれるが、こんな事情で誰も全体を管理なんかしていないと言うのが正解かもしれない。ただネットワーク全体の技術的な整合性を取ったり、課題について話し合うための組織としてはIETF(Internet Engineering Task Force)という物*3があって、様々な検討や仕様策定、調整を行っている。どこの政府にも干渉されない中立的な組織だが、個人的にはボランティア組織と言うより、インターネット技術者によるギルドといった方が似合うように思う。時には団結して政府に対して反対運動を起したりしているし。*4 偏見だろうか。アドレスだって、一意性の確保は注意して管理しているが、そのアドレスをどこの誰が使うかなんて全然関与していない。それにできっこないだろう。*5

10年程前には、インターネットの商用利用についてはけっこうタブー視されていた部分もあった。日本の場合では fj などのニュースグループでは、よく商用利用を図った人が叩かれていたりしたし。ボランティアで通信事業関連の法律の網をくぐって構築して、運営されているんだから、商用利用とは何事かと。しかし社会基盤資本(インフラ)の安定性を図る上で商用利用への道は避けられなかったと思う。当時のパソコン通信との相互接続運用の開始によって、そうした道筋の準備が整い、IIJ とか商用のプロバイダーが出てきた。さらに拍車を掛けたのは多分、Windows 95 の登場だっただろう。Microsoft の貢献と言う事に付いては賛否両論有るとは思うが、Windows 95 によって、インターネット利用者の市場は一気に広がったし、その分、インフラが増強され、インターネットが日常生活の一部となっていくの原動力になったと思う。と同時に現実世界と同様に犯罪の舞台にもなり、セキュリティ関連の技術が急激にそのニーズを増していったと思う。

インターネットのアーキテクチャは元々 end to end で通信の両端でプロトコルやデータフォーマットを定義して、真中は単なる中継点に徹している。だから自由度が高いし、けっこう好きに通信機能を持ったアプリケーションを構築できる。(ベースが TCP/IP なら後は最低2台の間の取り決めだけだから。)だから多くの人がその上でシステムを組んでいったのだろうな。そう言う意味では冒頭に挙げたインターネットに対する勘違いが全く洒落にならないケースについては、少し不安に思う。イギリスでフリーなコンソールベースの WWW ブラウザ Lynx を使って スマトラ島沖地震の寄付金をネット経由で行おうとしたら、どこでどう間違えたか、使っていた Lynx がマイナーだと言う理由だけで勘違いされ、挙句の果てにライフルで武装した警察官に自宅を急襲される羽目になるなんて。

大多数の人たちは、インターネットは道路や鉄道のように、公共機関や巨大な資本が全てを管理していると思っているのだろうか。そこに実はある意味開かれたシステムであり、自己責任の世界である事なんて、今では有名無実なんだろうか。セキュリティの名のもとに、安全と秩序の為に、余計な事を考えなくても良いために、私たちは与えられた自由の中に自分たちを閉じ込めてしまうのだろうか。国民として私たちが税金を払っているからこそ、道路だって整備され安心して車を走らせることが出来るが、その意思決定には少なくとも民主主義の仕組みに基づき、議員を選んで、議会で話し合って決められている。 道路だって本当は突き詰めて考えれば、自己責任なんだろう。しかしあまり実感はないと思う。間接的な参加しか出来ないからかな。

インターネット上のコミュニケーションは個人を重視した開放的な性格を色濃く持っています。ですから、本質的に個人主義に立脚してつくられていったアメリカのインターネットと、強い権限と管理主義のもとに築かれてきた知識体系や情報体系に影響されているヨーロッパやアジアのインターネットとは、その意味が相当違うのです。

つまり、インターネットの革命性、インターネットの衝撃はヨーロッパやアジアの国でこそ、本当に大きな意味を持っているように思います。日本などはまさしくその一例で、インターネットは、個人がどう責任を持って生きていかねばならないのかということを考えていく大きなきっかけとなるはずです。

「インターネット」 村井 純 著 岩波新書 416. 1995 岩波書店。P12 より引用。


2001.9.11 以降、アメリカは国家の安全と個人の自由のバランスについて、試行錯誤を繰り返しており、自己責任だけで何かを行うと言う事が少しづつ難しくなっているように思う。一方欧州は EU の拡大と発展に伴い、アメリカと違った形で自由と個人主義が浸透していっているように思う。やはり緩やかな連帯の中で、国家がその絶対的な立場を少しづつ放しつつあるからだろうか。日本はどうなんだろうか。

「インターネット」と「個人の自由」と「国家の安全」。

私の場合、もうすぐ仕事の上でそうした事柄を考える必要になるだろう。自分自身の課題として、難しい問題にぶつかったと思う。が貴重な機会だと思おう。

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つまりそうだよ
続く曖昧、劣等、感情論
往々にして繋ぐ緩衝材、妄想、インターネット。

仮想現実を
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今日のBGM 「N.G.S」 by Asian Kung-Fu Generation in 「君繋ファイブエム

インターネット (岩波新書) 君繋ファイブエム

*1:考えるきっかけを作ってくれてありがとうございます。→チャリンコ左大臣さん

*2:例えば USE ネットとか、日本の場合は JUNET かな。

*3:当然関係する組織が役割毎に幾つかあって、それらが連携してと言う事になるが。代表的にと言う意味で。

*4:例えば、アメリカが進めていたエシュロン計画や 2001.9.11 以降のインターネットの監視活動強化政策に対する反対運動など

*5:ちゃんと管理されているはずの銀行の普通口座ですら、匿名の利用者に金で売買され、振り込め詐欺に利用されているぐらいだし。管理していても必ず穴はあるものだ。