お神酒

バタフライ効果とよく言う。カオス理論でよく説明される、北京の蝶々の羽ばたきがニューヨークに嵐を起すと言うやつである。以前、会社の社内報の冒頭にあった社長メッセージにこの話しを引用して、1人1人の努力もその成果はすぐには見えないし無駄だと思うことがあるかもしれないが、可能性は絶対ゼロじゃないし、数を集め、継続すれば、必ず大きな風を起す事が出来ると、社員に訴えていたと思う。

たとえ話は引き手の心情によって捉え方が随分違ってくる。社長の引用を読んで、なんか本来の意味とは違うんじゃないかと言う気もしたが、その心情はよく分かる。悪貨は良貨を駆逐すると言うが、どんな職場にも、必ず優秀な人材はいるし、1人1人に話しを聞けば、何がしか色々と考えていると思う。が集団になると、集団として別個の意志が働いて、どうしようもない方向に行く事は多いと思う。そんな現状を憂いてなのであろう。*1

本来は些細な全然関係の無い事が、全く別個のところで大きな影響を与えていると言う意味だと思う。私の場合、蝶々の羽ばたきは神前にお供えするお神酒を買う事だった。
家にある神棚に荒神が飾られなくなったのは、やはり去年の11月からだったと思う。それまでは母親が定期的に荒神やお神酒やお米をお供えして、立派に飾っていた。あの日を境に、お神酒徳利や閼伽椀、三宝や小皿を尽く引き出しの奥のほうに引っ込め、何もなくがらんとした神棚となってしまった。文字通り荒れた果てた神社のようだった。神棚や仏壇というのはその人の精神状態をよく表すのだろうか。それはそのまま、母親の心境だったと思う。

先月、兄が家に来た時、その事を指摘すると同時に、お神酒用にもなるお酒を内祝いとしてくれたので、私が代りにお神酒だけはあげていた。形や環境を整える事が心を整える事もある。お茶の作法はその辺をよく表していると思う。ただ母親はやはり心が荒れているせいか、私のそうした所作にいつも愚痴を吐くことが多い。聞くとつらくなるが、それでも何がしか物事が腐敗する方向に行くのせき止める意味で、聞き流しながら、お神酒だけは上げつづけてきた。

今日は昼前にそれもそろそろ切れる頃なので、近くの酒屋にお神酒を買いに行った。やはり神前に供えるお神酒である。色々とつらい事が多いし、ここでお金をケチることは、なんか自分の悩み事をどうでもいい様に粗末にしていると思うこともあり、思い切って香りの良い上等の酒を買ってみた。

出る前もやはり愚痴られたが、帰ってからも、母親から愚痴られた。

「どうせ、店の人から吹っかけられて、安い酒を高くかわされたんやろうに。」

久々に切れた。

「うるさい!!、それやったらまるで、俺がアホみたいやろう!!、ふざけるな、自分の息子がそんなに信用できんのか!!・・・」
(゛ `-´)/ コラッ!!

後は堰を切ったように、怒鳴りつづけたと思う。気が付けば、「おかん、いったい、俺の人生なんやと思っているんや!!」、と今の今まで不満に思っていた事が次から次へと口から出ていた。止めようなかったし、止めないほうが良かっただろう。なんだろう、

今までの人生でずっと心の奥底に秘めていたことが、
それが自分の人生に重しとなっていたような事まで、
その一言が、私の心に随分と傷を作っていた事まで、
普通なら絶対に話さないような事まで、

とにかく怒鳴っていたと思う。今まで、私がそんな風に思っていたなんて、母親はほとんど意識して居なかったことらしい。

「おかんが、そんな風になったんも、人をそうやって傷つけて来たからやろ。!!」

そう叫び、少し冷静になって見るとさすがに動揺していた。

ただ、不思議と自分の言葉に後悔はないし、母親もそう落ち込んでいないようにも見える。*2 今まで、一人で家に居る時、今までの人生を振り返って散々、残念と後悔に苛まされてきたと自分で言っていたので、もう慣れっこになったのだろうか。ただ、本人はまだ相変わらず、被害妄想にとらわれているが、人に愚痴を言い、なじるというのも、それだけ精神状態が回復してきたと言う事なのか。去年の11月から年始に掛けては、それすらなく、生ける屍に近かったのである。

今までの人生、父親の件とか、母親もつらい事が多かったから、私はずっとその聞き役に回っていたところがある。兄は早々に家を出たから、余計そうなのだろう。その分、私は反抗期にも、本当に必要な意味での反抗をどこかで止めてきたような気がする。母親が私の事を、「子どもの頃から、大人のようにしゃべろうとする」といっていたが、その通りかも知れない。隠し事が多く、本音を見せない。必要な意味で自我を出したり、自己主張する事が極端に下手だったような気もする。考えをいつも頭に溜め込んで、いざ人前で話しをしようとすると言葉が混乱してまるで意図が通らない事も多かった。もしくは極端に感情的になって自己主張して、周りが引いてしまう結果になるとか。それでも、母親にとっては都合の良い子だったような気がする。*3

いずれにしても、今日は、まるで手を付けていなかった反抗期を、もう一度やり直すような状況になってしまったが、心が少し軽くなったのは、普段、母親の前でそれだけ自分を押し殺してきたからだろうか。

よく分からないが、やはり自分の人生は自分の物だと思うし、そう過ごしていけそうな気がしてきた。そんな感じだろう。母親がこんな病気に掛かれば、この先の人生に対して大きな重荷を背負ったと言うのが普通なのだろうけど。どうも重荷ではないらしい。不思議な物だ。

・・・・・
消したい過去、消したい罪
溶け残る響き歪み
消せない過去、消せない罪
溶け残る心

手に取ったすべても
絡まっていたんだよ。
そして今日に至って無常を知る
サンディ

切り取って満たしても
失っていたんだよ。
そして今日に至って無常を知る
サンディ

届くかい?

今日のBGM 「サンディ」 by Asian Kung-Fu Generation in 「崩壊アンプリファー

崩壊アンプリファー

*1:どちらかと言えば、現状では業績になんら貢献していない、社内の高等遊民のような私がこんな話しをするもの恐縮なのだが。

*2:今は何事も無かったように、今日の晩御飯を準備している。ある意味、その辺は図太いところがある。

*3:小さい時に物をねだった事もほとんど無かったと思うし。