「おはよう」

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母も亡くなり、子どももいない。もう一生、母となることのないであろう私。五月に次々とやってきた「こどもの日」や「母の日」は、私の中のそんな欠落感を再確認させるようなところがあって、ちょっとつらかった。
いえ、ちょっとどころではなく、かなり.....。
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先般、あまりに心寂しくなって、父の元を訪ねた。どうしたら、父のように日々、前向きに生きられるのか、尋ねたかったのである。私の迷いに対する父の答えは実に明快だった。
「毎日、一回、大声で笑いなさい」
「一日、一度、人を喜ばせなさい」
この二つを実行させしたら、人生は楽しく、有意義になる。そうアドバイスしてくれたのである。
なるほど、九十一歳をいきいきと生きている秘訣はそんなところにあったのか。目からうろこの思いだった。
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日本経済新聞、2005年 6月7日 夕刊 11面「熟年を彩る・心境仙境 歌人 道浦 母都子」 より引用。

家から最寄駅まで自転車で移動する。途中に小学校があるが、児童の登校時間にそこを通ると、校門の前に立っている先生から「おはようございます」と挨拶をされる。自転車で移動しているし、慣れていないので大抵は小声で応じて会釈をするのだが、昨日の朝。いつものもように校門の前で挨拶を交わすと、先生のそばにいて、色々と話し掛けていた生徒が一人、先生にこう言っていた

生徒:「(関心したように)あっ、ちゃんと挨拶しはるんや。」
先生:「そうや!」

事の善悪を覚えると言うのはこう言う事なんだろうと、不意にそう実感した。わずかながらも素直に嬉しい。独身で子どももいないので、学校や教育の世界とは縁遠いと思っていた。が、ちょっとした態度示す事でも良いなら、それなりに貢献できると言う事か。少しだけ、社会の中で生きているという気がした。