報道の現場に口をはさんでみる。

ながのさんへ。
こんにちわ。前回の記事にコメントさせて頂いたので、そのフォローという事で意見申し上げます。
コメント欄に書こうと思ったのですが長くなったので、記事にしてトラバします。

引用前後しますが。

ながのさん>テレビ局に「公共性」「公益性」というものが求められることを前提にして、あえて言うけど、視聴率主義を否定して、テレビの世界で働くってことは無理です。
ながのさん>少数の良識派に支持していただく番組、圧倒的なマスに見てもらえる番組であれば、テレビ業界の中ではるかに評価されるのは、後者ですから。

確かに職業倫理と利益追求の両立と言うのは難しいですね。現場で試行錯誤を続けられている、ながのさんに取って楽天の一件は新しい風が吹くきっかけになるかもと期待を込めて感じられるのも理解は出来ます。と同時に予期せぬ変化も起こりうるわけで、それに伴う痛みにどう耐えるかも含めて、皆で考えていく必要がでるのでしょうね。
楽天という新興のメディア企業にとって、TBS を買収する意義はどこにあるのでしょう。一般社会での認知度が非常に上がる事、VHF の電波資源の割り当ては強い規制により既に飽和状態である事や、TV 局が非常に高いコンテンツ生成能力を持っている辺りでしょうか。確かに楽天にとっては非常に魅力的だと思います。その逆を考えてみましょう。

ながのさん>私が楽天の件で、肯定的な姿勢をとったのは、新しいメディアのテレビへの参入で、よりテレビとネットの融合が進化した場合、多チャンネル化も含めて、報道に新しいチャンスが増える可能性があるのでは、と期待したからです。

この辺はライブドアがフジに対して買収を仕掛けたときも同じような事が言われてきました。その後フジとライブドアは業務提携をしましたが、果たしてどの程度、具体的な流れになりつつあるのでしょうか。全く誰も語らない未来を語るのは非常に難しいですが、既に語られた言葉ならば、その受け売りをするのは非常に簡単です。ただそれを実現するとなると非常に難しくなると思います。
楽天の場合、会社のホームページの会社概要を見れば分かりますが、企業理念に相当する部分はあまり有りません。メッセージ色が極めて希薄だと思います。単純にインターネットの分野で世界一大きな会社を目指していますと言う程度の事しかかかれていません。実際にそうした目標を実現するために、M&Aを積極的に活用しているわけですが。別にそれは会社のあり方の問題なので、それ以上突っ込みません。ただこう言った姿勢で事業に取り組む会社から、ながのさんが言われる「報道に新しいチャンスが増える可能性」を高める変革(イノベーション)が本当に生まれるのかと言う疑問は有ります。

要は会社の文化のあり方だと思います。本当に革新的なものを生み出す会社には、利益を上げる以上に社会に対する自社のアイデンティティに拘る風土というのが有ると思います。例えば日本だと、二足歩行ロボットのアシモを開発したホンダとか、アメリカだとIT 分野で、高い技術力を持った社員の自由な発想に価値を置く google やデザインやスタイルに個性的なこだわりを持つ Apple といった会社でしょうか。アシモの場合も滑らかな二足歩行を実現するまでにかなりの年月を掛けていますが、開発物に対する収益の見込みや事業モデルもない状態で、とにかく最後までやり遂げたのは、利益を出す以上に、広い視野で社会に対して、どのようなインパクトがあるのかを考えることのできる理想や見識があったからと思います。
私もメーカーの開発部署にいて、技術者の端くれとして、新規に技術を確立して、事業を立ち上げる事の難しさを日々実感しています。自分の信じる価値を、社内に、社外の市場にどのように訴えれば良いのか、悩ましい部分でもあります。報道の現場とメーカーの開発現場では、多分にかなり事情が違うでしょうが、理想の追求と継続していくための利益の確保をどう両立するか、理想の追求には時間がかかりますが、利益の追求は短期で必要になります。悩みの本質は何となく似ているように思えます。

ながのさん>ただ、現実として、少数の良識派に支持していただく番組に意義を感じる幹部、スポンサー、そして、何より現場のスタッフは存在するわけで、編成もそういったバランスの中で行われてる。

ながのさん>現場にいる私たちだって、一生懸命取材していることを、ほんの少数の人に伝えるのでよければ、他のメディアがあるわけで、テレビで伝える最大の利点は、ものすごい数の人々に伝えることができるってこと。

ながのさん>影響力が増大するってことは、ただ伝えればいいってもんじゃなくて、さまざまな壁を乗り越えたり、ニュースに関心のない人も観てくれるような工夫が必要になってくる。その中で、日々もがき続けているっていうのが実態です。

ながのさんの意見を拝読していて思ったのですが、こうした現状を考える上で、今一番の課題はスポンサーの定義をどのように拡大して行くかなんでしょうね。現状では、ちょっと商業主義的に寄り過ぎのきらいがあるように思えます。例えば最近は法律の改正で NPONGO も自立を促され、収益事業の実施を認められていますし、その経済規模も大きくなってきました。例のホワイトバンドではないですが、彼らをスポンサーにして、視聴率至上主義ではないメッセージ色の強い番組を作成し、その中で NPONGO の事業宣伝や寄付の呼掛けを行い共存共栄を図るとか等でしょうか。民放では多分にメッセージ色の強い番組は遠慮されがちな部分があるかも知れないですが、インターネットの技術と連携して、文字情報をインタラクティブに発信できるような新しいメディアを活用する事で、それまで一方向、不特定多数なメディアであるTVで解決出来なかった問題を回避できる可能性は有りますね。

ながのさん>寄せられたコメントには、批判的、悲観的なものが多いけど、私はTBSに、ただシャットアウトするのではなく、いろいろな可能性を論議して、提示してもらいたいなあ、と思うのだけど。

楽天には随分批判的な事を書きましたが、多分に彼ら自身も暗中模索している最中なのかとも思います。どちらかと言えば今は資本の論理が強い会社ですが、社会に受け入れられて、事業を継続していく上でそろそろ理念の重要性にも気付いていく時期ではないでしょうか。またTBSを始めとする今までのTVメディアがその地位に安住しているのも事実だと思います。ただライブドア vs フジテレビの時のように劇場型の闘争ではなく、双方(特に楽天側は)とも世論などにも配慮しながら、静かに交渉を進めています。少なくとも表面的には、双方聞く耳は持っているようですね。民放といえども放送機関が公器であるなら、公の立場でその交渉の過程に如何に世論として第三者からの意見を届けるか、その辺が重要になってくると思います。報道のプロとして、ながのさんがどのようにお考えなのか、ご意見を blog に上げていただければ幸いです。