Mosque in Japan

昨年末に少し気になる記事が会った。今はあまり注目されていないが、今後の私達の生活にも大きく影響するような気がする。

イスラム過激派 パキスタン人、日本支部を画策 警視庁が捜査

15年に入国、接触

 アルカーイダやロンドン同時テロとの関係が指摘されるパキスタンイスラム過激派テロ組織のメンバーが、日本支部設立を目的に極秘入国していたことが二十九日、警視庁公安部の調べで分かった。産経新聞が入手した警視庁の内部捜査資料にも「支部設立を目的として来日」と明記されている。イスラム過激派の組織網構築の動きが日本国内で確認されたのは初めて。米中枢同時テロから五年となる節目の年を前に、政府も国際テロ対策の抜本的な見直しを迫られそうだ。

 問題のテロ組織は、「シパヘサハバ・パキスタン」(SSP)。

 捜査資料や調べでは、男は一九七〇年代生まれで三十歳代のパキスタン人。警視庁は、イスラム・コミュニティーやモスク(イスラム教寺院)への捜査の過程で、情報提供者である「協力者」から「SSPのメンバーが支部設立のため来日した」とするテロリスト情報を得た。出入国管理記録を照会したところ、この男が平成十五年、宗教活動のビザで出入国し、礼拝中などに「SSPの支部設立を目的に来日した」と発言していた事実を確認した。

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 ■現地でテロ要員勧誘

 ロンドンやバリ島など世界にイスラム系のテロが拡散する中、日本でもイスラム過激派組織が支部設立を画策していた。警察当局は「日本のイスラム・コミュニティーからテロリストをリクルートしようという動きでは」と警戒を強めている。

 これまで警察当局が想定していたのは、米中枢同時テロのようにテロリストが入国し行うテロ。サッカーの日韓ワールドカップ(W杯)直後の平成十四年七月から十五年九月、アルカーイダ幹部のリオネル・デュモン被告が滞在、別のイスラム組織のメンバーと群馬県で同居していた事実は、警察にも衝撃を与えた。

 だが、米中枢同時テロの主犯格でアルカーイダのナンバー3だったハリド・シェイク・モハメド被告は、米捜査当局に「日韓W杯を狙いテロを計画したが、日本には『インフラ』(支援網)がなく、断念した」と供述。「日本人へのテロはイラクなど国外の可能性が高い」(警察幹部)との見方が大勢だった。

 ところが、警視庁の二年以上におよぶ極秘捜査で、イスラム過激派によるテロ支援網の構築にもつながる動きが日本国内で初めて確認された。

 現地のイスラム・コミュニティーからテロの「人材」を勧誘する−。これが昨今のイスラム過激派によるテロの潮流だ。七月のロンドン同時テロは英国で生まれ、「英国人」として暮らしていたイスラム系移民の子による自爆テロ。豪州で十一月、原子炉を狙ったテロ容疑で一斉摘発されたイスラム組織メンバーは、豪州生まれの移民二世らだった。

 米英両国などとともに日本も攻撃対象として名指しされており、警察関係者は「テロリストに悪用される恐れのある国内のイスラム・コミュニティーの一層の実態把握に努める」としている。

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【用語解説】シパヘサハバ・パキスタン(SSP)

 パキスタンで活動するイスラムスンニ派の過激派テロ組織。80年代に設立。パンジャブ州ではシーア派との宗派間対立でテロを繰り返している。アフガニスタンにあったアルカーイダの軍事キャンプで訓練した戦闘員を多数抱え、分派組織「ラシュカル・イ・ジャンビ」(LJ)はアルカーイダを支援しているとされる。LJは99年1月、爆弾で当時のシャリフ首相の暗殺未遂事件を起こし、警察官ら4人を殺害した。

平成17(2005)年12月30日(金) in Sankei Web(産経新聞社) より。

確か、新潟でアルカイダの幹部が資金や資材調達のために長期滞在していたことは既に判明していたと思う。アルカイダによる日本国内でのテロの危険性も既に警告されている。昨年、共謀罪が継続審議にされたことに関して「戦前の治安維持法の復活」と言ったセンセーショナルな論調で話題になった。論争の主眼点はあくまで「治安維持法」か否かと言う事であったが、この法律の本質は、アメリカが提案して成立した国際組織犯罪防止条約に基づいて制定された物であり、多分に第一のターゲットは国内のイスラムコミュニティーであると考えても良いだろう。既に記事にも挙げたように現実的なアルカイダなどのイスラム過激派によるテロへの対策は極秘裏のうちに進められていると考えられる。日本と言う国で暮らす私達にとって、イスラムコミュニティの文化や生活習慣の実態はあまり理解できていないと思う。だから警察関係者も「テロリストに悪用される恐れのある国内のイスラム・コミュニティーの一層の実態把握に努める」と言っているのだろう。
しかし、それで良いのだろうか。なんか偏っているような気がするのだ。イスラム・コミュニティ(共同体)への実態把握をテロ防止を目的だけで行う場合、どうしてもその見方が性悪説で敵視する方向に傾いてしまい、本当の意味で理解を深める事は出来ないと思う。むしろ疎外感を生み出し、かえってテロの温床を生み出して行くような気がするのだ。アメリカ軍が今現在でも、イラクに駐留し現地の武装勢力から目の敵にされている理由の一つは、ファルージャの包囲戦などでモスクを破壊した事によると思う。モスクは彼らイスラム・コミュニティに取っては象徴であり、全ての生活の基盤となる重要な精神的インフラでもある。人の生活の基盤はあくまで精神にあり、それを破壊する事は、そこに集い人々の人格や生活を全て否定するに等しい。アメリカはもちろんイギリスやフランスと言ったヨーロッパ、ロシアなどではイスラムに対する偏見からか、イスラム・コミュニティは社会的に孤立しがちな状況にあると思う。*1 それは多分に欧米社会がキリスト教国だからだと思う。そしてイスラムコミュニティが肌で感じる社会からの疎外感こそが、アルカイダSSP 等のイスラムテロ組織の言う「インフラ(支援網)」に繋がるのだと思う。そう思えば、単に実態把握・監視する以上の社会的なアプローチが必要になると思うのだ。*2

要は理解不足が疑心暗鬼、偏見を産み、イスラムコミュニティにおける疎外感を生むなら、もっと肯定的な相互理解を進めればよいと思う。日本は欧米と違い、多神教の包容的な文化をもち、本来の趣旨から外れた形でクリスマスですら国民的行事にしてしまうお国柄である。では具体的にはどのようにしたら良いのだろうか。以下のような取り組みが参考になると思う。

モスクを津波シェルターに
国交省などが津波防災セミナー

数多くの津波被害を経験している日本の取り組みや防災技術をインドネシアの復興*3にも役立ててもらおうと、日本の国土交通省や国連人間居住計画などが主催する「津波防災セミナー」が16日、ジャカルタ市内のホテルで開かれた。セミナーでは、アチェ州やスリランカなどで現地調査を行った日本の港湾、土木専門家らの調査報告や日本のハード整備やソフト施策を含めた津波対策が紹介され、専門家は「地域社会に根付いているモスクを津波シェルター(避難所)や防災教育施設として利用してはどうか」などと提言した。
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金曜礼拝で防災教育
また津波被害にあった地区でもモスクは比較的軽微なダメージだったことから、モスクがインドネシアでは相対的に頑丈な作りで、さらに柱構造のため、津波にも耐久性があるだろうと説明。菅野氏は「住民はモスクの場所をよく認識しているし、屋根にスピーカーが取り付けられているので、警報を出すこともできる。毎週金曜日には礼拝のために住民が集まってくるので、防災教育をする場としても活用できる」と述べ、津波シェルターとして利用できるとも見方を示した。

The Daily Jakarta Shinbun 2005年 3月17日号より引用。

要は、イスラムコミュニティに於けるモスクが象徴的な存在であり、コミュニティから非常に大切にされている事を利用して、地域社会の安全を確保する上での役割も担わせようということである。日本におけるテロ防止にも同じような考え方はできると思う。理想論かもしれないが、イスラムにおける祝祭などを通じて、モスクをイスラムコミュニティと日本の地域社会との交流の場に位置付ければ良いのである。日本の寺社が地域社会からの喜捨で維持されているのと同様に、モスクの維持に日本の地域社会が喜捨をするようになれば、イスラムのコミュニティは多分、この日本社会に愛着を抱くだろう。*4 テロのインフラを早期に摘発するには、対象となるイスラムコミュニティが自発的に、告発するように持っていけば良いのである。テロをかくまう事が彼らの平穏な生活を脅かすなら、彼らは自発的にテロリストを排除するだろう。

ただ、私達は宗教に対してかなり感覚的、無意識のうちに捕らえている所がある。イスラムの人々は宗教をかなり意識的に捕らえ、考えている。そうした態度の違いは多分に双方に文化的な衝撃(カルチャーショック)をもたらすかも知れない。しかしそうした刺激は、ある意味健全な物だと思う。例えば、以下は日本に留学してきたごく普通にいるイスラム文化圏出身のチェチェン人青年の日本に対する感想である。

チェチェンの若者が見た日本

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 でもほんとうにびっくりしたのは、日本人です。日本人の人間関係。おたがいをそんけいし合うことをとてもだいじにします。世界でもそうしてほしいです。そして日本ではおたがいのめんどうをみるのはすごいと思います。ある日、お母さんとホテルへ帰る道をわすれてしまったので、日本人にききましたが、ぜんぜんちがうほうへ行くその人は、私たちをホテルまでつれていってくれました。それは勉強になりました。

 でも今わかりますが、日本人の人間関係にもあまりよくないこともあると思います。お金ある人はだれでもえらいということ。日本でわかいお金持ちの男がおじいさんと話すとき、友達とつかうことばをつかってもいいですが、おじいさんはていねいなことばをつかわなければなりません。お金がないから。それはちょっとよくないと思います。チェチェンの家におじいさんとか年上の人が入ったら、みんなが立って、自分たちの座る場所をあけます。チェチェンで一番大事なのは年ですから。お金はいつでも変わります(今日ある。明日ない。)が、人はずっと同じです。お金ある人が偉いときは、人の生活の意味はお金になってしまうので、みんな、やめよう!
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そういえば、日本人の問題がもう1つあります。日本の生活はとても楽しいですが、ひとりひとりはきっとさびしいと思います。日本の子供はちょっと大きくなったら(6歳から9歳だと思う)、ふつうの人とコンタクトがあまりありません。自分の家族でもだれもキスをしたり、抱き合ったり、お互いに触ったりしません。そのままでずっと生きていると、とてもさびしくなると思います。

 日本ではいろいろな大きい問題があります。たとえば毎年自分を殺す人が3万人いるとききました。それも日本の生活の問題だと思います。それはほんとうにとても大切な問題なので、自分でもそうする人が少なくなるためにどうしたらいいか考えましたが、やはりreligion(宗教)が日本でも必要だと思います。
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チェチェンニュース Vol.05 No.11 2005.05.01

この意見に対して具体的に論じるつもりは無いが、素直に新鮮な意見だと思う。多分に最後の「やはりreligion(宗教)」はやはりイスラムの事であろう。こうしてイスラムの文化と対峙して、理解を深める事は、結局、私達自身に対する理解を深めることになるのかもしれない。

今年がどのような年になるのかは良く分からない。多分にイスラムとの対峙は避けられないように思う。ただ願うならば、予期せぬイスラム過激派によるテロと言った不幸な事件によって否定的な出来事としては起こって欲しくない。もっと積極的な文化間の対峙として自然発生した社会的現象として発生して欲しい。日本もイスラムも元々は文化的に寛容な歴史を持っているのである。

*1:もちろん、相互理解を目的とした活動も活発に行われているが。

*2:そういう意味で、私は単に治安維持法の再来という理由では無く、日本国内におけるテロの助長という予期せぬ副作用をもたらす可能性があるので現段階では共謀罪の導入には慎重的な立場をとる。

*3:2004年、12月26日のスマトラ島沖大津波からの

*4:考えてみれば、寺社というけど、神道と仏教の二つの宗教に対して日本人は何の違和感もなくお賽銭を投げているのである。