苦界浄土のその後

世界政府:「オハラの学者達の研究は-------」
「我々の想像を越える域に達している。知識は伝達する。その島から出してはならない。」
オハラに住む悪魔達を抹殺せよ!!! 正義の名のもとに!!!
・・・・・
オハラの学者達:「全知の樹にも直接砲弾が!!!
クロ−バー博士:「!! 政府は始めからこうするつもりだったんじゃろう。愚かな・・・!!
オハラの学者達:「図書館の火を何とかするんだ!!
「全知の樹を守れ−−−−−−−!!!
・・・・・・・・
オルビア:「こうしたかった・・・・・・!!
ロビン:「ずっと・・・ 」
オルビア:「ロビン・・・!!!
ロビン:「・・・・・・・・お母さん・・・・・・・・!!!
クローバー博士:「わしのせいじゃ・・・・・・・・・・・ロビン・・・・・・・・・・・!! お前"歴史の本文(ポーネグリフ)が読めるというのは本当か!? わしがちゃんと目を光らせておれば・・・!!! "」
ロビン:「ごめんなさい・・私・・どうしても」
オルビア:「そんな事もできる様になってるなんて・・・本当に驚いたわ」「頑張ってたくさん勉強したのね。誰にもできる事じゃない・・・ すごいわロビン!!
ロビン:「ウウ〜・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・!! うえ〜〜〜〜〜ん!!!

尾田栄一郎作 「ワンピース」 第396話 "サウロ" より

前の日曜日だったけどね。深夜にアイロンをかけながら、TVをみていたんだ。NHK の 2ch 「NHKアーカイブス」って番組だったんだ。他のチャンネルを見ても騒がしい番組が多くってね。静かにドキュメンタリを流していたので、何気なくみ始めたんだ。確か環境アーカイブスってシリーズの最初で、水俣病関連の番組を2題やっていたんだ。 なんかね地味な番組だったけど、吸い込まれるように見入ってしまったんだ。戦後の歴史って案外と知らないしね。中学や高校でも授業が追いつかないから、ここまでは来ないしね。受験にも出ないし。

色々あったんだ。そう思ったよ。
水俣病の始まりから、当初、ネコが踊り狂って死んでしまう病気が人にまで発病し始めて、正体不明の伝染病の疑いを掛けられた揚句、隔離されて苦しんだ患者達。
熊本大学医学部が調査を進めた結果、普段食べている魚介類に蓄積した有機水銀による中毒である事を始めて明らかにした後、水俣の漁業が壊滅的な打撃を受けて、漁民達が保証争議を起したり。
患者の数はどんどん拡大していき。神経が侵され、日常生活が、そして生存すら困難になっていく様子。ベットの上でせわしなく手を震わし、煙草を吸おうとする患者。寝たきりになって、うつろな目で何も出来ず、手をゆがめて流行歌をラジオから聞いている患者。
そして、その有機水銀チッソ水俣工場からの排水に由来するかもしれないという第三者による調査報告。チッソと交渉を進めようとする患者達。そしてチッソ内部で既にネコを使った動物実験で排水の有機水銀水俣病を発生させる可能性を把握していたという隠れた事実。
そして昭和44年 水俣病が発生してから14年目にようやく政府がチッソの排水が有機水銀だって認めたこと。
そして、その頃に生まれてきた子供達が胎児性の水俣病に侵されていた事実。不自由な体と戦う子供、苦悩する親達。
チッソに対して裁判ではなく補償のための直接交渉を要求する患者達。そこから逃げて第三者機関を通じて間接的に患者達に接しようとするチッソ側。そうした長い長い苦しい苦しい鬼ごっこ

淡々と昭和の落ち着いた雰囲気で映像が流れてきたんだ。淡々の事実に語りかけられたんだ。

クローバー博士:「−−−−−−ここでぐずぐずしていてはいかん。オルビア、ロビンを連れて逃げろ!!!
何とかロビンを避難船へ潜りこませれば島を出られる!!!
サウロ:「!!」「ぜー ぜー」「ここにおったか!! 探したでよ!!!
ロビン:「サウロ!!
サウロ:「オルビアにも 会えたんだな!!
オルビア:「サウロ・・・・・・・・あなたが なぜこの島に!!?」

尾田栄一郎作 「ワンピース」 第396話 "サウロ" より

なんかね、ぐっと来たんだ。患者達の思いなんだろうかね。チッソとの直接交渉を果たすために、何十日も百日以上も東京のチッソ本社前で、座り込みさ。黒い地に白い字で、ただ「怨」ってかかれたのぼりを立てて、デモ行進していたな、東京で、けど当時の東京は高度成長時代の真っ只中。どんどん豊かになっていき、ちょうど今の 21世紀の日本の都会の風景のプロトタイプが完成しつつあったころさ。ギャップがね。事態の深刻を余計に浮かび上がらせているんだ。座り込み?・・・要するに抗議の意思表示のために行う自発的なホームレスの事さ。チッソの本社の前でね。生活費は?・・・ 支持者といっしょに街頭でビラを撒き、カンパを募って何とかそれで凌いでいたと思うよ。すごい執念さ。黒い地にただ一つ白い字の「怨」。その気持ちの大きさは映像じゃなく、実際に遭遇したならすごいエネルギーだったとおもんだ。*1

そう言えば、私自身、なんでここまで見入ってしまったんだろうね。そういえば、数年前に新聞で日本の環境対策に関する新聞記事の連載で、水俣病がシリーズで取り上げられたんだ。覚えているよ、その記事だけは。強烈な印象だったな。チッソの無責任や、政府の無策に対する避難も、水俣病患者の悲惨な実態を克明に説明したものも何も書いていなかったよ。一枚の写真に簡単なお父さんの気持ちを説明しただけの記事さ。

こんなふうだったかな。写真は晴れ着を来た娘さんを抱えて、微笑む人の良さそうなお父さん。いわいる黒ぶち眼鏡の昭和の人って感じ。娘さんがね。胎児性の水俣病で肢体が不自由なんだ。二十歳になったんだ。お父さん、普通の娘さんだったら成人式で晴れ着でしょ。だから、娘にも思い出を作ってあげたくて、頑張ってきれいな晴れ着を買ってね。娘に着せて記念撮影をしたんだって。成人式に出られないからね。きれいにおめかし出来て嬉しそうなお父さん。娘さんも引きつった表情からなんとか笑顔を作ろうとしている。

わかるななんか気持ちが。どんな病気でも娘は娘。二十歳になったら立派な着物も着せてきれいな姿を残したいね。本当に・・・・間に合ってよかった。・・・・・ぎりぎりだったよ・・・・その四日後に娘さん亡くなってしまったからね。・・・・・

・・・・あの記事を読みおわってね、なんかすぐに涙が溢れ出てきたよ。・・・・・理由は分からないけどね。・・・

サウロ:「何の因果かよ・・・・・・・・!!」「海で遭難してしもうて浜辺でロビンに助けられた そんな事より事態は最悪だで!! 早く島を出ねェと!!!
オルビア:「ロビンをお願い!!! 娘を必ず島から逃がして!!!
サウロ:「!」
ロビン:「え・・・ やだ・・・!! お母さんは!? 一緒にいてくれないの!?
サウロ:「・・・・・・・・ ・・・・・・・・!! オルビア おめえ・・・」
オルビア:「私はまだ・・・・・・・・ここでやる事があるから」
ロビン:「お母さん!! 離れたくないよ!!! やっと会えたのに!! ・・・私もここにいるっ!!!
オルビア:「ロビン 「オハラ」の学者なら知っている筈よ」
”歴史”は・・・人の財産 あなた達がこれから生きる未来を きっと照らしてくれる」
「だけど過去から受け取った歴史は 次の時代に引き渡さなくちゃ消えていくの」
「「オハラ」は歴史を暴きたいんじゃない 過去の声を受け止めて守りたかっただけ・・・・・・・!!
ロビン:(ひっく)「・・・・・・・・・・・!!
オルビア:「私達の研究はここでおわりになるけど」
「−−−−たとえこの「オハラ」が滅びても」
あなた達の生きる未来を!! 私達が諦めるわけにはいかないっ!!

ロビン:「・・・・・・・・・・・!! わからな"い"!!
オルビア:「いつかわかるわ さァ 行って!! サウロ!!
サウロ:「・・・・・・・・・ええんだな!!
ロビン:「いやだ私もここにいるよ!! お母さん!!!
オルビア:(−−−−そう呼んでくれて嬉しかった・・・ありがとう)
ロビン:「お母さァん!!!
オルビア:(これからは ・・・・・・・・・ 私の分まで)「生きて!!! ロビン!!!
「・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・

尾田栄一郎作 「ワンピース」 第396話 "サウロ" より

会社でね。安全衛生委員やってたんだ。色々と勉強になったよ。工場に勤務だからさ。安全や環境について監査するだけど委員会なんか出ていると勉強になるんだけど、実に環境を守るためには微に入り細に入り色んな法律があるんだ。安全衛生委員の仕組みも法律で決まっていて、必ず組合員からメンバーを揃えてそういう監査のための委員会を作って、安全と環境を守るための活動をしなきゃいけないだって。
ただね。10年以上不況が続いたせいかな。みんな世知辛く、目の前の成果や利益を重視する姿勢が強くなったんだろうね。そういう雰囲気で入社した人たちってそれが当たり前になるんだ。多分。そういう感じで、「安全衛生委員会」も若手から槍玉に上がって「時間食うだけだし、コストも掛かるんだから、廃止したらどうだ」って意見が出たんだ。結局、会社の利益追求とは別に法令遵守の立場から取組まないといけないと理由はちゃんと説明されたと思う。けどね。・・・・・何ていったら良いんだろう。ちょっとただならない物を感じたよ。*2 安全衛生委員会だけでなく、環境法規についてもそうだけど、会社での教育は法律の種類と内容はちゃんと教えるが、その法律が制定された理由は、「昔、環境問題が多発して」で終わるもんな。・・・どうしても根本的な「なぜ?」ってのは伝わらないだろうね。会社の教育だから仕方がないわさ。・・・

環境庁がいつの間にか環境省になったりと、環境問題って色々話題になることが多いよね。日本企業の環境技術ってすごいレベルだし、それが国際競争力の根源になっている部分もあるわさ。トヨタプリウスだってキーコンセプトは環境負荷が低いでしょ。確か。また環境保護への取り組みとか、それが企業イメージの根幹に関わるしね。後はボランティアレベルでも様々な取り組みがなされているし、環境に貢献するために多くの人が活動している。けどね。だからと言って本当に社会全体の意識が高いかっていうと、どうも怪しいと思うんだ。環境に対する意識を上げてもっと多くの人に関心を持ってもらうために、ソフトなイメージを作り上げる事は大切さ。しかし本当に環境問題に対処しようと思うなら、そこで切り捨てたハードな部分と向き合わなきゃいけないと思うんだ。

個人的に「環境にやさしい」とか「地球にやさしい」とか言う言葉には違和感を感じるんだ。そう感じている人も何人かいると思う。けど大半の人は、そこからソフトで、良心をくすぐるような感覚を覚えるんじゃないかな。どんな商品でも「環境にやさしい」と名を打てば、すごくイメージが上がるからね。けどそこには、環境問題の本質が隠れてしまっていると思うんだ。難しい問題さ。環境問題は根本的には人間関係の問題であり、人が短期的利益を追求することで環境負荷を高め、全く関係の無い人の生存を脅かすと言った間接的な破壊行為にどう対処すべきかということだと思うんだ。
水俣の問題を見ていると本当にそう思うよ。水俣病の原因がチッソだと分かった当初、地元住民の患者に対する感情は相当複雑だったんだ。だってチッソは当時の地域社会に雇用を生み出し、多くの人の生活の基盤となっていたんだしね。地元が一致して患者を支援していたなんて事、実現できなかったと思うよ。それに発病者はどちらかと言えば、農業や漁業従事者で現金収入が少なく、いきおい地元で取れた値の安い新鮮な魚介類が食生活の中心だった人たちさ。工場勤務者とそうでない人が互いに疑心暗鬼になった面もあったと聞いたさ。生活をそう本当に苦くつらい歴史だったんだ。あの環境破壊が原因の病気はね、地元にとって。

だけどね。「環境にやさしい」とか言う言葉、漠然とした「環境」という概念が対象になり、その背後にある人間を隠してしまう気がするんだ。いわいる自尊心をくすぐるその裏で、他者への無関心が横たわっているって感じかな。他人と関わるのは煩わしい。けど、悪い評判は欲しくない。お金で買えるならそうしたい。「環境にやさしい」とラベルされた商品を購入する事で見事成立する。・・・・ちょっと悪い風に言い過ぎかもしれないけどね。だけど、こういう人を甘やかすような標語って、実質的な部分がいとも簡単に風化してしまうとおもんだ。

最近、「水からの伝言」に関する記事を書いたんで思うんだけど、あの本に関する印象が何かに似ていると感じていたけど。そうこの「環境にやさしい」に感じるものとよく似ているんだ。脳神経学者の茂木健一郎氏が「水からの伝言」に関する書評に以下ようなことを書いているんだ。

・・・・・・・・・・・・・
第二に、これはおそらく「水は語る」のような本を買って感動する
読者の心性を考える際により本質的な問題になると思いますが、
「他者性」への感受性が欠落していることです。
自分が善意を持っているから、あるいは何かを美しいと
思っているから、他者もその感受性を共有して
何らかの感応を示すべきだ、そのような世界は心地よいと
思うのは、ファシズム的心性です。
相手が人間であっても、この意味での他者性の尊重は重要な倫理問題になる。
ましてや、相手が水だったら、なぜそんなもんが自分と同じ感性を
共有していると思うのか。
そのような心の持ち方は、世界の中には自分のことなど気にもかけない、
絶対的に異質な他者が存在するのだという事実を許容できない、小児的心性と
言えるでしょう。
・・・・・・・・・・・・・
FreeML 科学メーリングリストの記事 より引用。

「環境にやさしい」にも私は本質的におなじような問題の構造を見て取ってしまうんだ。どうなんだろうね。あの「水からの伝言」が義務教育にまで、入り込んで科学者達を大慌てさせたけど、ああ言う物が義務教育の場で取り上げられる一つの原因は、似たものや概念が既に社会に受け入れられているから何じゃないかな。・・・・なんか難しいね。

ロビン:「サウロ−!! 戻ってお願い!!!
サウロ:「だめだでそれはできん!!!
ロビン:「え〜・・・ん!!
サウロ:「ロビン!!!誇れ!!! ロビン!!! お前の母ちゃん立派だで!!!
オハラは立派だでよ!!!
この島の歴史は!! いつか お前が語り継げ!! ロビン!! オハラは世界と戦ったんだでよ!!!!」・・・

尾田栄一郎作 「ワンピース」 第396話 "サウロ" より

後ね、捕捉しておくと水俣病ってまだ終わっていないんだ。放送の最後に簡単な解説があったんだ。 水俣病の補償を受けれる対象となる為の認定基準ってすごく厳しくてね。ちょうど水俣病重症患者のセンセーショナルな実態が広くPRされた事を逆手に取られてしまったみたいだね。だから中〜軽度の水俣病患者は未だになんら補償とかされていないんだって。その認定基準とかを巡って未だに裁判が続行中でね。「環境にやさしく」とか言う前にもっと「人にやさしく」した方がいいんじゃないかって思うんだけどね。みんなの問題だと思うんだ。そうした犠牲の上に、今の豊かな生活や環境先進国日本があると思うしね。

そんな感じで日常生活の中に巧妙に見えないように隠された「何か」を伝えなければならないと思ったんだ。それは単に記録された物以上に、記録を残した人の記憶、感情、意志だろうと思うよ。「歴史」とは人が存在する事がベースだし、「歴史への関心」は結局「人への興味」から発生するなんだろうな。・・・多分。

・・・・・・・

誰のだ 誰のだ
私の この身体は
誰なの 誰なの
自由が 失われる。

真実を映す
鏡の裏側に
立たされる気持ち
もうたくさんよ

弄ばされた 心の
逃げ隠れは 過去の事実
人の 心 闇に うもれ
私 光 はなて

本日の BGM 木村カエラ 「誰」(in アルバム「KAELA (通常盤)」より)

KAELA (通常盤)

KAELA (通常盤)

*1:実際に映像で見ると、それは実に異様な光景だった。今、同じ事をやったらテロリズムを奉ずるカルト宗教と間違えられるだろうな。

*2:そういう風潮が特に30代前半以前の若い世代にあると言うなら、例のライブドアの問題も起こるべくして起こった事件なんだろうな。と思う。