想定範囲、イメージ

ソフトウェアの仕事をしている。自分自身は気をつけているつもりであるが、システム開発のプロジェクトを進めていくうちに、目的と手段が混同されて、状況が混乱することがある。「何を開発するのか」という部分で、ソフトウェアは目に見えないものだけに、勢い「イメージ」や想像を基盤においてしまい案外と不確実な情報を前提にしてしまうのである。*1 後はそのイメージ、想像通りのものを作るために「方法論」に拘って、その「方法論」の検討に集中するあまり、「現実」との齟齬を引き起こすのである。

ここ最近のソフトウェア開発における「プロセス」重視の状況は、作業手順を明確にする為という目的以上に形式的な開発手法へのこだわりを生み出し、さらに「目的」と「手段」の混同を生み出しているような気がする。いわいる根拠のない「勝ちパターン」に変に固執しているように思えるのだ。プロジェクト管理のための書類作成が、本来のシステム開発作業を圧迫したりとか、よくある話だと思う。
日本人の民族的な思考なのかもしれない。依然見た NHK の番組で先の大戦ゼロ戦にまつわる放送を行っていたが、結局、真珠湾攻撃時の勝ちパターンに固執するあまり、技術的に取り組むべき「弱点」*2のカバーを精神論*3で片付けてしまい、アメリカの反撃に沈んでしまったとの説明だった。

最近、仕事が忙しく帰りが遅い。ちょうど帰って晩ご飯を食べながらサッカーのW杯見ることが多い。12日の日本対オーストラリア戦、非常に口惜しい試合だったと思う。多分、数多くの人がこの敗因について、考え、語っているが、私は試合前のマスコミの報道を通じて送られてくる情報も踏まえ、この結果で試合が終わったときに、なぜか最初に書いた、ソフトウェア開発における「手段」と「方法」の混同が頭に浮かんでしまった。先のドイツとの親善試合でスピードのあるパスワークで高さ、体格のあるドイツを翻弄、押し込んだだけに、勝つこと以上に、その「イメージ通り」のサッカーをすることに拘ってはいなかったであろうか。

こうすれば「勝てる」なんて、敵となる相手のいる話なので、相手の戦略しだいでは意図も簡単に崩れるし、むしろこちらの作戦の前提が崩れることを想定して、2の手、3の手を打たないといけないと思うのだ。なにせ相手は「知将」と歌われたあのヒディングである。新聞には、ジーコの采配ミスとの記事が多かったが、インタビューを読んでいると、彼の意図していることにも相手の戦略に対する予想と合理的な判断は会ったように思える。ただそれ以上の意見は書かないでおこう。*4 後は選手のコメントを見ていて、宮本の恒さんは非常にショックが大きかったようだが、選手の中では彼が一番、勝つためにどのような状況を作ればよいのか、現実を見て、的確に物を考えていたように思える。要はオーストラリアの攻め方、守り方の実際を踏まえて、喋っており、あまりの日本の「勝ちパターン」には拘っていなかったようだ。どうすれば1-0のリードを守れるか、何がリスクかを、あの場の状況に応じて、冷静に計算していたからこそ、リスクが現実となったあの結果にショックを受けたのだと思うのだが、どうなのであろうか。ただ、そうした反応が一番、大人だと思うけど。

そういう意味では、よく言われるように「気持ちを切り替える」なんてもっての外で、あの負けの内容に冷静にとことん拘って、分析できるだけのタフな精神がなければ、次のクロアチア戦でも、一度崩れたら、また不用意な失点に陥る可能性も高く、まずいのではと思うのだが、どうなんだろうか。

同じ試合でも、イングランドパラグアイ戦、イングランド1-0でリードしている状況だったが、試合半ばからのベッカムのプレイを見ていると、守備には力が入っていたが、パスワークもボール運びも、シュートなんかも結構、まったりとした脱力系のプレイが多かった。ただあの脱力具合、結構パラグアイの守備を空回りさせていたし、いい塩梅に味方にボールが回っていたように思える。やはり相変わらず、うまいなと思った。要は現実的に勝てば良いと割り切るならば、のんびりと時間を使って、ボールをキープして、相手のあせり誘うのも有りかとも思えた。確かにチームとして手札の数は日本よりもイングランドの方が圧倒的に多いように思える。

仕事でもあんな感じで、たまには速く帰れるぐらいの、脱力具合で無駄を抜いて自分のペースで開発を進めたいものだ。ただチームで仕事をしている以上、難しい話ではある。この辺はサッカーも同じか。

*1:本来はこの目に見えない論理構成を明確にするために分析を行い、結果を図示するのである。ただこの基本目的を意識せず、分析のための分析になるケースも多い。

*2:ゼロ戦の弱点は、運動性能を上げるために、装甲が薄くパイロットの安全を犠牲にしていたことである。戦争後半はそれが原因でベテランの数が急減し、パイロット全体の質の低下を招いた。

*3:大和魂で何とかしろと言う論議が堂々とまかり通った。

*4:ジーコは、敗因は、精神的な要因ではなく、純粋に技術力の問題だとコメントしていたと思う。私も最近、ソフトウェア開発でそう思うことが多い。