塔。

この霧の深い森に迷い込んでから、幾日が過ぎたのだろう。我々はいつか晴れると霧の中を進むうちにいつの間にかこの森に足を踏み入れていたのだ。

ほんの目の前しか、視界が利かないこの深い霧の森で、私達は声を出し合い、はぐれないように歩みを進めていた。焦燥と疲労がじわじわと私達が蝕み始めたようだ。とにかくどこかで休まないといけない。


「いったい、この霧はいつ晴れるのかしら。・・」
「分からない。それにこの森は何処まで続くんだ。地図も何の意味もなさない。こんな視界では今の立ち位置が全然わからない。」
「何か邪悪な魔道師の仕業か。」
「そんな邪悪な意志や魔法の痕跡は感じないよ。」
「魔法で現在地を確認できるか。」
「いや、あまりにも霧が濃いし、この森が深いせいか、果てが見えないんだ。」
「なんなんだ、この霧は」
「この霧は、視野を閉ざし、物を隠すために存在している。そう意志と目的をもって存在しているんだ。」
「なぜ分かるんだ。」
「とにかく、ここに留まろうとする意志と言うか、ある種の力を感じるんだ。」
「と言う事は、何か宝物でも隠しているのか。」
「分からない、ただ私達はちょうど大きな鯨に飲み込まれたように、この深い霧の森に閉じ込められたようだ。」

彼らは、朧な姿の数を数えながら、互いの存在を確認していた。


「だけど、物を視るって、いったいどう言う事なんだろうね。」
「・・・・・」

寡黙な哲学者でもある錬金術師の RqoJuxil はそうつぶやいた。誰もその問いに答えない。突拍子も無い事を突然つぶやくのは RqoJuxil の癖である。かれも敢えて誰かの返答を期待している風でもなかった。

そのうち目の前に何がしか、聳え立つ影が見え始めた。


「塔?、塔だ。」
「あー、塔だ。しかし高い塔だな。何処まで続いているか分からないよ。」
「誰が建てたんだ。いったい。」
「静かね。誰かいるのかしら。」

塔のふもとには、ドアがあった。カギは掛かっていなかった。私達は慎重に中に入った。割りと広い。天井はそう高くなかったが、塔の壁際に階段があり、それは天井の穴を抜けて上の方に続いているようだった。暗い中で明かりを灯し、久々にお互いの輪郭のはっきりした顔を確認しながら、私達は少し安堵した。階段と逆の壁際には乾いたわら草が積んである。布をかぶせれば、簡単なベッドが出来上がる。私達は森の途中で見つけた木の実が食料に成る事を確認して、少し安心すると、食事を取り、とりあえずその簡易ベッドの上で眠りにつくことにした。もう随分、野宿が続いている。ここなら安心して眠ることが出来そうだ。

翌朝、私達はこれからどうするかを話し合った。

「この塔は何のためにあるのだろう。」
「あー、塔のてっぺんが見えないぐらい高いしな。」
「見張り台かしら、それとも何か灯台のように目印のための物かな。」
「とりあえず上ってみればと思うんだ。頂上まで上がる事が出来れば、多分森全体を見渡す事が出来ると思うんだ。」
「そうだな。それはその通りだな。」
「で、誰が登る。もしかすると罠とか仕掛けて有ったらどうする。」
「じゃー、罠外しが得意な俺が上ってみるわ。」
「そうだな、Gyuffik 頼むよ。後は Qasduyy お願いできないか。剣で鍛えた君ならバテたりしないだろうし、もし塔の上に怪物が居ても安心だよ。」
「分かった。後は、Syhoobl、来るか。退屈だろう。身軽だしなお前は」
「うん、面白そう。」
「じゃー、準備を整えて上がるとするか。」

三人はロープや小刀などの道具を揃えると、階段を上り始めた。

「何か気配がするわけでもないし、一体この塔はなんなのだろうね。」
「あー、一体人っ子一人としていない、この深い霧の森に誰が建てたんだ一体。」
「謎だよ。全く、誰も使っている形跡が無いしね。」

「おーい、聞こえるか。・・・・」
「あー聞こえるよ。」

天井の上にはもう天井はなく階段はらせん状に壁に沿って塔の上の方に吸い込まれるように続いていた。残った 4人も 天井の上に上がって行き、時々、上の方に声を上げて、様子を見守っていた。

「どうだ。付いたか・・・・・・・・・・・・・・・」
「ああ、ついたよ、外に出れるから、出て見るよ。・・・・・・・・・・・・」
「あかんわ。・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「とりあえず、もう降りるよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「分かった。」

「ちょっと待って・・・・・・」

RqoJuxil が叫んだ。

「もう一度、外に出てみて。お願いだから」
「なんだ?」
「とにかく、もう一度、外に出てみて。お願いだから」
「分かったよ。」
「僕が良いと言ったら降りてきて欲しいんだ。」
「あー、分かった」

RqoJuxil は急ぎ、下に降り、塔の外に出ると。霧に隠れた塔のてっぺんに向かって大声で叫んだ。

「もう降りてきてよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「分かった。じゃー降りるよ。」
「RqoJuxil、何を考えているかしら。・・・」

しばらくして、三人が降りてきた。

「駄目だよ。期待はずれさ。」
「どう言う事?」
「この塔の頂上には、回廊があって外を眺める事が出来るんだ。塔の上には霧は掛かっていなかったけど、見渡す限りの霧の絨毯さ。おまけに曇り空だから、太陽が何処にあるかも分からない。」
「うーん、残念だね。方角を確認できないのか。」
「あー、螺旋階段を何回もぐるぐるしてりゃ、方向がどっちなんか覚えてられないよ。」
「そう言う事か。」
「塔なのだから、何か遠くからでも認識できるように、目印として建てられたんだろうけど。これじゃ役に立たないよ。」
「霧が塔の仕事を奪ってしまったと言う感じだね。」
「じゃ、この塔は捨てられた塔なのか。」
「うーん、ただ、灯台として使えないかな。そう思うんだけど。」
「どう言う事 Zuvoffgh ?」
「つまり、この塔の頂上で、何か強力な光を出しつづけるのさ。」
「それで?」
「そうすれば、遠くからでもこの塔を認識できるだろう。そうすれば、基準点が出来るだろうし、そこを元に地図を作成すれば良いんだ。」
「うーん、なるほどね。まー灯台が上手く行くかどうか分からないけど、みんな、これからはここを基地にして行動しないか。これ以上、この深い霧の中で森をうろつくのは止めよう。少なくとも食料は何とかなりそうさ。水もここの近くに小川があっただろう。外に出れば分かるさ、せせらぎが近くに聞こえるだろ。」
「ああ、そうだね。 Kjohafuo。その通りだと思うよ。灯台の件は私に任せてくれないか。火炎や雷を扱うのは得意分野だからね。」
「了解、灯台の件は Zuvoffgh に任せるよ。硫黄はまだ十分あるのか。」
「あー大丈夫だよ。爆発させるんじゃなくて、力を抑えて、長く続けるように持っていけば良い。」
「地図は誰がつくる。やはり、Kjohafuo か。」
「そうだな、俺がやるよ。」
「おれは、この霧を何とかしてみるよ。」
「Qasduyy 、何とかするって?」
「剣を媒体に風を呼ぶのは、俺の得意な領域だ。地図を作る上で邪魔な霧を少しでも払えれば、探索も少しは楽だろう」
「じゃー、Qasduyy を先頭に霧を払って、俺が灯台を基準点にして色々と探ってみるよ。Kjohafuo も後からついて来て地図を作って行けばいい。」
「あたいはどうしよう?」
「 Syhoobl は Zuvoffgh と一緒に塔の上に登って、手伝いを頼む。一人では危ないし。」
「らじゃー!!」
「じゃあ。少し休憩を入れて、それぞれ、段取りを考えよう。後、RqoJuxil と Ouyfidso はどうする。」
「私は RqoJuxil と食料と水を確保しておくは。ね、いいでしょ、RqoJuxil。」
「う・・ん、分かった。 Ouyfidso。けど、あまり遠出できないね。あとこの霧について、持っている本を調べてみるよ。」
「そうだな、頼むよ。・・・」

役割分担が決まると、休憩、段取りを入れて、それぞれの仕事をこなし始めた。

だが、Zuvoffgh と Qasduyy の目論見は意外と苦戦した。破裂音を鳴らし、電気を起したり、爆音を鳴らして炎を起しても、その光はほとんどが霧に吸い込まれてしまい。予想上に光の届く範囲は狭かった。また轟音を響かせて、風を起して霧を吹き飛ばしても、視野が確保されるのはほんの5分と持たなかった。すぐに霧が一体を覆い尽くしていくのだ。この霧はあくまで何かを隠しつづけようとしているのか。その様相を頑な守ろうとするのだった。

To be Continued.......